諂諛

音楽好きによる音楽好きの為の雑記。

しりとり名曲紹介 No.16 [交信 / 赤い公園]

 

やっほー!落第です。

前回に引き続きガールズバンドを紹介しますよ。

 

 

概要

 

・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。

・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。

・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。

(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。

 

 

交信 / 赤い公園

 

2010年結成、2012年にEMIよりメジャーデビューした4人組ガールズロックバンド。

結成当初の音楽性はハードロックやシューゲイザーなどの音楽性を取り込んだ複雑な楽曲で話題を呼んだが、メジャーデビュー以降はポップスにより近付いたサウンドに初期の歪さを融合させた新しいジャンルを築き上げた。

2017年、ボーカル佐藤千明が脱退を発表。2018年に、元アイドルネッサンス石野理子がボーカルを後任することが決まった。

 

この楽曲は、メジャー1stシングル「今更 / 交信 / さよならは言わない」、1stアルバム「公園デビュー」に収録されています。

 

 

説明するだけで肩がつりそうになるバンドですが、このバンド、音楽オタクなら知らない訳にはいかない魅力だらけのバンドですよね。

特に作曲をしている人間ならほとんどが知っていると思いますが、ギター兼作曲を務める津野米咲さんの才能はプロの作曲家の方たちからも一目おかれているのです。

 

赤い公園が広く知られるきっかけとなった「NOW ON AIR」以降のポップで明るいイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、あれは津野米咲ジキルの方です。

 

今回はハイド津野米咲を紹介しようと思いますので、知らない方はぜひ目を通してくださいね。

 

 

変態

 

いつの時代にもロックバンドをやる人間の中には、過激なパフォーマンスをしたり支離滅裂な言葉を叫んでみたりバンド名に放送禁止用語を冠してみたりする輩がいて、そういう人たちが世間から変態と揶揄されることがあります。

 

しかし、僕は思うのです。津野米咲こそが、本物の変態だと。

 

確かに初期の楽曲「のぞき穴」や「透明」を聴くと色モノっぽい雰囲気はあるけれど、そうじゃなくて、コード進行の当てはめ方とか、ピアノ経験者なのにギターをやってるとことか、本当に深い音楽の本質的な部分での変態。

ウィキのプロフィールの所に「いわゆる音楽オタクである。」とか並の作曲家でも書かれないですよね。

 

今作の両A面の1曲目「今更」のような歌モノもめちゃくちゃキャッチーに作れるうえ、「交信」のようなポップスのセオリーには無い変則的なコード進行を入れた曲も作れる器用さ。しかも20歳そこそこで。

 

あと、シングルのカップリングにはカバー曲が入っているのですが、その選曲もなかなか変態なんですね。褒めてます。平井堅のPOP STARは名曲。

 

 

さて、津野さんがどれだけ変態か分かっていただいたところで、そろそろ本題の「交信」について触れていきたいと思います。

 

この曲の変態ポイントはサビのコード進行にあります。

 

 

プロも驚くコード進行発明家

 

僕が言うと偉そうな感じになってしまいましたが、本当にこの人の作るコード進行は常軌を逸していて、音楽理論の知識を持つプロのミュージシャンの方々も絶賛しています。

対談などで明らかになっているだけでも、亀田誠二さんや蔦屋好位置さん、ハマ・オカモトさんなど。多分もっといるはず。

 

1サビのコード進行の最初を見てみると、

近頃は / なみだ / 朝日が / きらきらで

F / Am / C / Dm

と続いていて、一見普通に見えますが、実際に曲を聴いてみると何となく違和感がありますよね。

 

この部分、実は超専門的すぎてブログに書けるレベルじゃないのであんまり込み入った解説はできないです。これ以上アクセス数が減ってほしくない。

 

なので、ここからはただの音楽オタクが早口で解説いたしますので、本当に興味のある人だけ画面を止めて見てください。ほぼスルーで大丈夫です。

 

 

 

まあ、あれですよ、セカンダリドミナントっていう移調する時に使う技法みたいなのがあって、この曲のキーってFじゃないですかー。だから最初はFなんですけどー仮にキーがCだとしたらFってサブドミナントになるんですよね?つまり最初のFはキーFに対するトニックコードと見せかけて実はCに移調してるんすよ。すごくないですか?

で、そっからFの代理コードのAmに移行してCに移行するんですけど、ここまでだったらキーCに移調したまま完結するように思うじゃないですかー。でも次Dmなんすよ。ここでキーがFに戻るんですよ。マジでやべぇっすよ先輩。一旦物語は平和に収束したかに見せかけてまだ続くんですよ。マジ西尾維新もビックリっすよ。天才のそれなんですよ。

 

こちらからは以上です。お疲れ様です。

 

 

要するにサビの頭では変わってないはずのキーが途中で変わってて、また元のキーに戻ってくるんですね。それが最初の4つのコードだけで高速に処理されてるからすごいというわけ。

これを狙ってやっているのか否かは不明ですが、一歩間違うと不安定な響きになりかねないような、王道から踏み外したコード進行を取り入れる津野さんの変態性が伝わったかと思います。

 

 

***

 

 

ここまで赤い公園の天才性、能力の高さについて触れてきましたが、ボーカル佐藤千明の脱退という大きな転機が訪れた事により、バンドとしてのタフさが加わって、新体制の赤い公園がすごいことになっています。

 

現時点でMVが公開されている「消えない」「Highway Cabriolet」の2曲は、津野米咲さんのメロディーメイカーぶりが最大限に発揮された超キャッチーな楽曲に仕上がっています。何より石野理子のカリスマ性に惚れること間違いなし。

是非ご一聴ください。

 

 

今回はこの辺で。次回は「し」から始まる名曲を紹介します。

 

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しりとり名曲紹介 No.15 [いたちごっこ / チャットモンチー]

 

新年度が始まりました。昨年度はご愛顧ありがとうございました。

元号も発表され、例年よりも新鮮な気持ちで新年度を迎えた方も多いのではないでしょうか。

 

こんな忙しない時期にこの記事を読んでいる方は間違いなく変な人ですので安心して今日も音楽知識を肥やしていってくださいね。

 

 

 

 

概要

 

・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。

・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。

・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。

(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。

 

 

いたちごっこ / チャットモンチー

 

 

2000年に徳島市で結成、2005年にミニアルバム「chatmonchy has come」でメジャーデビュー。

当時は珍しかった女性スリーピースバンドという編成や、ボーカル橋本絵莉子の素朴な見た目に反した毒のある歌詞やキャッチーなメロディー、更に演奏隊のテクニックがチート級というおまけまで付いて、その人気はあっという間に全国レベルに上がりました。

 

しかし、2011年ドラム高橋久美子が脱退。その後ツーピースでの活動やサポートメンバーを迎えての活動を経て、2018年に惜しまれながら解散を発表しました。

 

この楽曲は2014年、高橋久美子が脱退した後、サポートメンバーを含めた5人編成で製作されました。

シングル「こころとあたま」と両A面シングルでの発売で、MVに当時無名だった吉岡里帆さんが出演し、その可愛さで話題にもなりました。

今見るとちょっと垢抜けてない感じがめちゃくちゃ可愛い。こりゃ売れるわ。

 

恐らくチャットモンチーを語る上でスリーピース時代は勿論欠かせませんが、今回は敢えてこの曲を紹介したいと思います。

この曲には作曲技法において語りたいポイントが一つあって、歌詞コード進行という二つの要素が上手く噛み合っているとても器用な楽曲なんでございます。

 

 

 

歌詞に応じて変化するコード進行

 

ここからは少し難しいお話になるのですが、ご了承ください。

 

この曲のイントロからAメロにかけてはEメジャースケールで進行していく上にセブンスなどのテンションコードもほぼ使用せず、まったく純粋な明るいコード感で進行していきます。

 

ここで最初の歌詞を見ていきます。

 

今日は気分がいいな まさに新品の心だ

日記書くのやめようかな もう枠におさまらない

まさに今頃の季節感を想像させる「明るい」イメージの曲なんだと印象づけられますね。

 

そしてBメロに入った時に、ちょっと雰囲気が変わるのが分かるでしょうか。

Bメロから頭のコードがC♯mになっており、同じキーの中でメジャースケールからマイナースケールへと変化します。

 

ここで注目すべきは歌詞。

 

愚痴みたいなうた 吐いて

サプリみたいなうた 食べて

野次みたいなうた とばして

説教じみたうた 食らって

 

と、コード進行と同じく少し後ろ向きな印象の歌詞が続きます。

 

そしてサビでも引き続きマイナースケールの進行に、やや不安げな心情が歌詞にも綴られています。

 

鈍感ではいられない街 ここ東京

純粋では報われない声 私はただ

うたいたいうたがなくなってくのが

こわいだけなんだよ

止まれない街 ここ東京

 

 

このように、歌詞と同じようにコード進行も変化していくという技法が使われていることが分かります。

 

世に溢れるポップスの大半は、イントロからサビまでメジャースケールかマイナースケールのどちらかに偏っているのがセオリーで、その方が曲としての印象が伝わりやすいからという理由もあるのですが、単純にこの技法は思いつかなかったという方が真意に近いのではないでしょうか。

コード進行だけで言えばスピッツの曲はAメロが長調でサビが短調になる手法を多用していたり、J-POPの中ではそんなに珍しい手法ではないのですが、いたちごっこのように歌詞が連動しているケースはマジで初めて聴いたかもしれない。

 

くそ、真面目に解説してしまった。

 

 

えっちゃん大人になる

 

ここからはチャットモンチーのファンとして、この曲が持つ切なさとかを伝えたいと思います。

 

この曲を書いた橋本絵莉子ことえっちゃんは、この曲がリリースされる1年ぐらい前に第1子を出産しているんですね。お相手はロックバンドtacicaのボーカル猪狩翔一さん。

女性は子供を産むと性格が変わるだとか、母になるとかよく言われますが、この歌詞を見るとえっちゃんの心境の変化が現れている気がしますよね。

 

女性アイドルに「卒業」という概念があるように、ロックバンドという商売はある程度不特定多数の異性への売り込みを要する仕事であり、男性のように「モテたい!モテるやつが勝ち!」というアホな考えよりは、現実的に一人の男性と子供を育てたいという考えの方が圧倒的に多いのが現実。

チャットと同じく昨年解散を発表したねごとも、「いつまで続けるんだという葛藤があった」とコメントしていたように、女性の考え方ではそれが普通だと言えると思うんです。

 

 

「うたいたいことがなくなってくのがこわいだけなんだよ」という1文は、えっちゃんの心からの本音だと思うし、先に脱退していった高橋久美子さんや家族の存在もあって、この曲を書いた辺りの時期には既にチャットモンチーの終幕を見据えていたのかなと思ってしまいますね。

 

ちなみにこの歌詞は酔っ払って書いたものだそう。個人的には生理中に書いたようにも見えるんですけど。

なんか、思春期みたいなのじゃない、すげぇリアルな大人の憤りみたいなのが現れている気がします。オカン怖い。

 

 

 

***

 

 

解散は寂しかったですが、四国という小さい島に生まれたもの同志ということで、昔から妙な親近感と誇らしさを感じています。

久美子とえっちゃんは結婚して幸せになったから、アッコは早くべボべのこいちゃんと結婚してください。ご報告待ってます。

 

 

今回はこの辺で。次回は「こ」から始まる名曲を紹介します。

 

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しりとり名曲紹介 No.14 [グレープフルーツちょうだい / ゆらゆら帝国]


昨日ぶりの方は、どうも昨日ぶりでございます。

3月更新が少なかったので、2日連続で更新してみました。実は前回の記事は1週間ほど前にほとんど書けていたので余力でズリズリと書いています。

 

早く終わらせないとこのペースだと50回更新するのに2年ぐらいかかりそうだったので、今後もたまに連続更新をするかもしれないです。

まあ、時事ネタでもないので好きな時に一気に読んでいただくのも手ですからね。

とにかく記事にした曲を聴いていただければそれ以上は何も望みません。成仏します。

 

 

 

概要

 

・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。

・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。

・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。

(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。

 

 

 

グレープフルーツちょうだい / ゆらゆら帝国

 

 

1989年結成、1998年にアルバム「3×3×3」でメジャーデビュー。2010年に解散したサイケデリックロックの筆頭と言える伝説のロックバンド。

 

ボーカル坂本慎太郎は現在ソロ活動を行っていますが、昨年日本で初めてのソロワンマンライブがチケット即完のプレミアライブとなるなど、コアな音楽ファンからの人気が根強いアーティストですね。

 

 

この楽曲は、ゆら帝メジャーデビュー前の1996年にインディーズでリリースされた「アーユーラ?」に収録されています。

なんとなく「空洞です」ぐらいなら知ってるぐらいの人であれば、ゆらゆら帝国といえばお洒落で脱力感のある、ちょっと変わったバンドぐらいの認識かと思います。

 

ところがどっこい「グレープフルーツちょうだい」でござるよ。もうタイトルからイカれてるんですよ。

 

 

 

ぶっ飛んでいる

 

正直、この一言で説明終われるぐらいのぶっ飛び具合なんですが。皆様そろそろ聴き終わった頃でしょうか。

人類が長い事長い事かけて作り上げた大衆音楽としての様式美を、開始1秒で台無しにするレベルの唐突な始まり。これは期待できそうじゃないですか。

 

初期のゆらゆら帝国の楽曲はこのパターンが非常に多く、イントロも無く唐突に始まる事が結構あるが故、開始1秒のインパクトがすこぶる大きいんですね。良いYouTuberみたいな感じですね。

歌詞に関しては逐一説明していたらキリがないのですが、簡潔にまとめるとずっと理解不能な事を言っているだけです。

 

まずこのブツブツ呟いている低音慎太郎と、遠くでヒステリックに叫んでいる高音慎太郎が、同時に同じ歌詞を読み上げ続けている状況が、私たち凡人に理解できると思って録音したのか問い正したいですよね。

ちなみに2004年にリリースされたベストアルバムにこの曲の再録バージョンが収録されたのですが、こちらは低音慎太郎のみになっています。

 

 

そして、ここまでならただのカオスなおふざけソングになってしまう所を、そうならないのが演奏技術の凄さ。

ギターリフだけ聴くとどちゃくそ硬派なガレージロックになってもおかしくないレベルの超正統派なリフを弾いています。坂本慎太郎はライブで語りとこのギターを同時に弾くので驚き。超実力派YouTuberであることが分かりますね。

 

 

 

ずっとふざけていてほしい

 

筆者は作詞作曲活動も行っていて、自分のバンドの曲を作っているとどうしても真面目に作った方がいいのかと考えがちになるんです。

それは僕に限ったことではなくて、特に音楽のストリーミング化が進んだここ2,3年ぐらいの売れ線で活躍するミュージシャンの方々は特に意識する事だと思います。

 

展開の不自然さだったり伝わりづらい歌い回しを排除したりする事もあったり、最近の音楽市場の流れから、曲が長いとウケない風潮があったりして、楽曲自体の長さを短くする努力をしたりと、何かと消費者目線で作りがちになってしまうんですね。

勿論それは間違ったことではないし、むしろ時代に適応するのは音楽のあるべき姿だと思います。

 

 

坂本慎太郎さんはゆらゆら帝国のインタビュー記事などで「ゆらゆら帝国は自分たちの好きな事をただやっているだけ、たまたま見た人が食いついてきてくれただけ」といった旨の事をよく言っていたのですが、本当に彼らの活動スタンスはその姿勢を貫いていて、いわゆる売れる為の音楽みたいなものをほとんど意識せずに活動していたバンドでした。

 

ゆらゆら帝国の歌詞は、どれを見ても一見支離滅裂でふざけているようなものばかりで、まるで漫画の世界観のようなシュールな歌詞ばかりなのです。

サウンドにおいても、メジャーとは思えないぐらい自由に遊びまくっていて、丸ごと1曲一般の女の人に歌わせたり子供に歌わせたりしていた事もある程。

ある意味打算的でないバンドであったとも思いますが、そのスタンスに憧れるミュージシャンやバンドマンも多く、ゆえに解散した今でもファンが絶えることが無いのです。

 

 

時代の流れに翻弄されて、バンドマンさえも商業的な事を考えて活動している昨今ですが、今こそゆらゆら帝国のような、ぶっ飛んだ音楽を聴いてほしい。

ロックバンドなら、とことんまでふざけてほしいと私は強く思っています。

 

 

 

 

***

 

今回はこの辺で。次回は「い」から始まる名曲を紹介します。

 

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しりとり名曲紹介 No.13 [SWAN SONG / ART-SCHOOL]

久々の更新。三月は色々忙しかったし、いっぱいライブに行きました。

 

2/22のGRAPEVINEと中村佳穂さんのツーマンから数えて、先日3/23のSANUKI ROCK COLOSSEUMまでの約1か月でだいたい15組ぐらいのライブを見られました。

 

音楽的にはかなり充実した1か月になったのですが、その分飛んで行った出費の事を考えるとお尻がひゅっとなりますよね。春なのに。

 

 

概要

 

・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。

・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。

・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。

(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。

 

 

 

SWAN SONG / ART-SCHOOL

 

 

2000年結成のオルタナ系ロックバンド。内省的で陰鬱な歌詞やローファイで歪んだサウンドが特徴。

結成当時のオリジナルメンバーに、日向秀和(現ストレイテナーNothing’s Carved In Stone)、大山純(現ストレイテナー)等有名なプレイヤーが在籍していた事でも有名。

 

ART-SCHOOLといえば、2000年代前半のロックバンドを語る上で欠かせない、いわば「ロキノン系」の金字塔の様なバンドでありまして、その系譜は近年のギターロックにも色濃く影響を与えています。

 

まあ、良くも悪くも。ね。

 

 

 

 

根暗ロックの伝道師

 

突然ですが、このバンドのボーカル木下理樹という男が、2chなどのネット全盛期だった2008年ごろから「きのこ」と呼ばれていたことをご存知でしょうか。

知っている方は話は早いですね。どうぞ読み進めていただいて結構です。

 

何故きのこと呼ばれていたかと言えば、ズバリ髪型がきのこに似ているから。はい悪口。

 

実は現在若者バンドマンの中で流行している、所謂マッシュヘアーとか亀頭とか包茎とかカントンとか言われているあの髪型の元祖がこの男、木下理樹なのです。

そう、こいつが諸悪の根源。代わりに謝っておきます。皆申し訳ない。

 

僕が中学の時、ニコニコ動画ART-SCHOOLの曲が流れると「きのこおおおおお」という弾幕が決まって流れていたのを今でも鮮明に覚えています。

こんな冗談通じなさそうな見た目の男を死ぬほどいじり倒せるのがネットの悪い所。

 

 

 

アートの人気がピークだったのが、この曲が出た2003年ごろなのかな。さすがにリアルタイムで追いかけてはいないので不確かですが。

 当時はロッキングオンという雑誌の影響で、こういうオルタナと呼ばれるジャンルをやっているバンドが物凄く人気だったんですね。その波に乗った形で彼らもロッキングオンでは猛プッシュされていました。

 

何より革新的だったのが、この木下理樹という男の人間性。彼は本物の根暗。ナメてもらっちゃ困るぐらいの根暗。

バンドの総楽曲数は200曲近くあるのですが、全部歌詞が暗い。ネガティブだったり気怠さだったり、総じて否定的な歌詞を20年以上作り続けているのです。

加えて、声質も細く不安定な歌い方だったり、うつむきがちで猫背で歌う姿勢だったり、すべてが根暗という表現に結びついています。あと酒癖が悪いというおまけ付き。

 

 

このダメ男のバリューセットみたいな人間が、曲を書かせたらめちゃくちゃ綺麗なメロディーを作るんですよ

おまけに当時のメンバーには日向秀和大山純といった凄腕ミュージシャンが揃いも揃っていたわけですから、カッコいいに決まっているんですね。

 

 

そんなART-SCHOOL黄金期にリリースされたこの曲ですが、個人的には最高傑作と言っていいと思います。

 

のっけから「腐りきった感情で 僕は今日も生きている」と、節全開で攻めまくりの歌い出し。歌詞はやはり救いの無いまま終わっていくのですが、コード進行自体はGメジャースケール主体の明るめな進行になっている事によって、うっすら希望を感じるエンドロールのような楽曲になっています。

 

そして何より音が気持ちいいぐらいにローファイ。ひなっちが天才であることを嫌でも再確認させられるこの重低音。

 

この美しさと歪み切ったサウンドブレンドは正に奇跡。ダメ男が天下を取った瞬間である。

 

 

 

 

愛すべきポンコツ

 

 

実はこの黄金期はそう長く続かず、この曲がリリースされた2003年に日向秀和大山純の脱退、翌年レコード会社との契約終了。

その後はメンバーチェンジとレーベル移籍を何度か繰り返し、現在オリジナルメンバー(結成当時から在籍し続けているメンバー)は木下理樹のみとなっています。

 

この辺りから楽曲のクオリティだったり、歌唱力の低下などをネット上で叩かれることもあったのですが、世の根暗男子女子たちの生きる希望をそう簡単に見捨てられるわけがありませんよね。

 

 

近年のフェス対応型バンドの増加により、圧倒的に「他」を肯定するスタンスが主戦場となっているロックバンド界隈ですが、ART-SCHOOLは今も全くその真逆を貫くスタンスを変えることなく活動を続けています。

昨年リリースされたアルバム「In Colors」は、前述の黄金期のようなエモーショナルも感じられる傑作だったと思います。

 

現代のロックに脈々と受け継がれているギターロックの源流とも言えるART-SCHOOLを、是非とも愛してあげてください。

 

 

 

***

 

 

 

今回はこの辺で。次回は「ぐ」から始まる名曲を紹介します。

 

 

きのこおおおおおおおおおおおおお

 

 

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しりとり名曲紹介 No.12 [クロノスタシス / きのこ帝国]

 

 

なかやまきんに君のアーノルドシュワルツェネッガーの正しい発音の動画で何回見ても笑ってしまう系男子の落第です。

 

 

概要

 

・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。

・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。

・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。

(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。

 

 

 

クロノスタシス / きのこ帝国

 

 

2007年結成、2012年に「渦になる」でDAIZAWA RECORDSよりインディーズデビュー、2015年に「桜が咲く前に」でメジャーデビューしたロックバンド。

 

まさかの前回のCONDOR44から連チャンでDAIZAWA RECORDS所属バンド。自分でもびっくりなのですが、筆者がYoutubeで音楽を探し始めた最初の頃に知ったレーベルなので、僕自身も好きなレーベルではあります。

 

2ndアルバム「eureka」までは、シューゲイザーやポストロックの影響を受けた轟音ギター鳴りまくりのサウンドがコアな音楽ファンから人気でしたが、ボーカル佐藤千亜妃のクールで美的なルックスが話題になっていました。

 

そして、その後リリースされた「東京」は、それまでのきのこ帝国とは少し毛色の違うエモーショナルな直球サウンドで、ラジオや口コミを中心にヒットしました。

一気に知名度が広がったタイミングで発表されたアルバム「フェイクワールド ワンダーランド」は、翌年のCDショップ大賞にノミネート、某ブログ記事の読者が選んだ2014年のベストアルバムランキングでは2位にランクインするなど、きのこ帝国の代表作となりました。

 

 

 

クロノスタシス」は、そのアルバムのリード曲であり、非常に人気の高い楽曲でありますが、僕はずっと、この曲について大変失礼な疑問を一つ抱いていました。

 

 

 

 

変な曲

 

 

いや、待ってくれ。炎上してもいいが僕の話を聞いてからにしておくれよ。

 

 

日本の音楽において、評価とは別に流行る音楽とそうでない音楽はある程度明白なラインがあって、一つはまず構成が分かりやすいということだったり、あるいはサビのメロディーラインのキャッチーさ、サビに向かうまでの助走が分かりやすい上昇のし方をしていたり、つまりJ-POPという大きな枠組みの中に如何に良質なメロディーを詰め込めるかという点が流行のポイントになっているのです。

 

 

もう言いたいことはお分かりかと思いますが、この曲が流行るはずがないんですよ。普通に考えれば。

 

だって、そもそもきのこ帝国といえばシューゲイザー直系のホワイトノイズぶっこんだり、長尺な曲も結構あったり、大衆には受け入れられて来なかった音楽をやっていたバンドなわけですね。

 

インタビューなどでも、フェイクワールドワンダーランドではポップスを意識的に取り入れたと発言しているだけあって、かなりメロディーがメロディーとして機能する曲が増えはしたものの、1年前まで春と修羅のような狂った曲を歌っていたバンドが何故ここまでファン層を広げたのか。その理由がこれ。

 

 

メロディーに頼らないキャッチーさ

 

突然ですが、Pharrel WilliamsHAPPYという楽曲をご存知でしょうか。CMなどでも有名な、めちゃくちゃ流行ったあの曲。

 

あの曲の最初を聴いていただきたいのですが、クロノスタシスの始まり方と同じなんですね。

つまり、この曲はヒップホップのサウンドを意図的に取り入れていて、J-POP的な響きがしない大きな理由ですね。

このサンプリングっぽい"タッタッタッタッ"というリズムを人力でやってしまうのが何ともお洒落。

 

そしていきなり歌に入るのですが、最初の4行でこの曲の言いたいことはすべて言い終わっている気がするんです。

 

コンビニエンスストアで 350mlの缶ビール買って

きみと夜の散歩 時計の針は0時を指してる

クロノスタシス”って知ってる? 知らないと君が言う

時計の針が止まって見える 現象のことだよ

 

最初聴いた時は、ここがAメロで後にサビが来ると勝手に思い込んでしまう日本人の悪い癖が出がちですが、最後まで聴くとどう考えてもこのラインがこの曲のメインであり、サビ的な役割であることが分かります。

 

そう、ここが要するに「メロディーに頼らないキャッチーさ」ということ。

 

主人公が「いつ、どこで、誰と、何をして、さらに何があって」という情景の描写が何一つ欠ける事無く簡潔にまとめられていて、聴き手がどう手に取っても同じ風景を想像できる。というか想像せざるをえないレベルなんですね。

 

しかも「コンビニ」「缶ビール」「夜の散歩」という情景が特に大学生ぐらいの若い層にはドンピシャで共感できる場面であることも、人気に火が付いた理由だと思いますね。ちなみに僕はビールが飲めないので惜しくも共感ビンゴ達成ならずでした。

共感ビンゴって何ですか?

 

勿論歌詞を追っていくとストーリーや背景がもっと深く描かれていくのですが、ポップスにおいて大事な要素である「短い時間にどれだけ良い要素を詰め込めるか」という点で、この最初の30秒は聴き手の興味を引き付ける上で完璧なラインであることが分かります。

 

邦楽の傾向としては、このような情景描写に重きを置いた歌詞よりも、心情の動きをロマンチックに表現したものやメッセージ性のあるものが共感されがちですが、その傾向を打ち破ったと言える、革新的な1曲だと思います。

 

以上を踏まえて、改めてこの曲を聴いていただければ、少し違った見方ができるかと思います。

やっぱり、佐藤千亜妃は美人だよね。

 

 

 

***

 

 

今回はこの辺で。次回は「す」から始まる名曲を紹介します。

 

 

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しりとり名曲紹介 No.11 [Good Night 44th Music / CONDOR44]

 

先週の記事からちょうど1週間経ちましたが、びっくりするぐらい面白い事がなくて書くことも何もなくて震えています。

 

本当に人生過ごしてきた中で1番何も起きなかった1週間だったかもしれない。多分仕事帰りに猫がいたのがマックス面白い出来事でした。反省。

 

 

 

概要

 

・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。

・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。

・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。

(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。

 

 

 

Good Night 44th Music / CONDOR44

 

 

https://itunes.apple.com/jp/album/good-night-44th-music/210314629?i=210314643

 

 

前回と打って変わって知らない人も多いかと思うので、しっかり説明をしたいと思います。

 

CONDOR44は、1999年結成のスリーピースバンド。2001年に「Hush & Vane」でインディーズデビューし、2007年に3rdアルバム「Good Bye 44th Music」リリース後、しばらくの活動休止状態を経て、現在はバンド名を「44th Music」に改名し、インディーズでの活動を継続しています。

 

特徴は男女ツインボーカルと、とにかく退廃的でローファイな楽曲。クリーンと轟音ディストーションを器用に使い分けるギターも特徴の一つ。

 

当時のインディーズレーベルの中ではかなりの力を持っていたUKPROJECT傘下のDAIZAWA RECORDSというレーベルに所属していた事もあり、当時のインディーズバンドとかを追いかけていた音楽好きの間ではそこそこ知られたバンドでもあります。

 

 

そして、この曲を聴いてくださった方はお分かりいただけたかと思いますが、この曲はなんと12分越えという超大作。

 

どうした落第、君はJ-POPが好きだキャッチーなメロディーが好きだとあれだけ言っていたじゃないか。

やっぱりしりとりで繋いでいく以上こういう苦しいラリーも続けなくちゃいけないのか。大変だなぁ。

 

と、思った方。残念でした。

 

 

 

圧倒的エモみ

 

曲の構造自体のあらすじみたいなものを書くのは嫌なので、聴ける方はまず聴いていただきたいのですが、個人的には日本のギターロックでこういうプログレ的な展開の長めな曲の中では1番最後まで聴いていて飽きない曲だと思います。

 

まずイントロから鳴っているメインリフ的なフレーズがめちゃくちゃ切なくて良い。

このフレーズだけで1曲作ってもかなりの名曲だなぁと思いながら聴いていたらもうあっという間に3分過ぎている。すご。

 

実はこの曲が入ったアルバム「Good Bye 44th Music」は、バンドがライブ活動を丸3年休止し、創作活動に専念して作られたアルバムだそう。

まぁ曲を聴けばそれも納得ですよね。歌詞をとっても歌メロをとっても、1曲の間に10曲分ぐらいのアイデアが出し惜しみなく詰め込まれています。

 

 

 

かと言ってゴチャ混ぜ感があるわけでも無くて、テンポはどんどん変わっていきますがキーはずっと変わらず、加えてイントロの激エモギターリフがテンポチェンジしつつも繰り返し鳴る事により全体でまとまった1曲に仕上がっているのです。

いやぁすごい。こんな曲作れねぇっすよ先輩。

 

 

適任にも程がある声

 

ドラマとか見ていて、「うわぁこの俳優にこの役はさすがに無理があるだろ。。」とか思うことってありませんか。

あとは楽曲タイアップも同じく。

THE BACK HORNのコバルトブルーの伝説の謎タイアップを僕は忘れない。

 

このバンドのボーカルに関してはその真逆で、特に男性ボーカルの佐々木さんの声がめちゃくちゃこのバンドの質感にマッチしていて、他のボーカルでは補完できない魅力的な歌声ですよね。

 

筆者がバンドの中でも1番性的にグッとくるバンドGRAPEVINEのボーカル田中和将にも同じような魅力を感じる時があって、決してディーヴァのような情感てんこ盛りの歌い方ではなく、いい意味で無表情というか。

単純に僕の性癖なので別にそれが正しいとかではないですけどね。

 

やっぱり人間100人居れば常にミュージカルのように人生経験の酸いも甘いも100受け取れる人ばかりではないですからね。

「曇の日の空が薄暗い感じが好き」みたいな普通の感性に寄り添うような音楽もたまにはいいものです。

 

 

 

***

 

 

今回はこの辺で。次回は「く」から始まる名曲を紹介します。

 

 

最後に、このバンドの1stアルバム「00203」のCD帯に書かれていたシュール過ぎる1文で記事をしめたいと思います。

 

 

 

ママ、やっぱり僕ギターが大好きだよ!

 

 

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しりとり名曲紹介 No.10 [traveling / 宇多田ヒカル]

 

あっという間に、このしりとり名曲紹介も10曲目に突入しました。

 

毎週水曜日と言っておきながら、すっぽかしたり考えすぎて一週間延ばしたりしていますが、趣味なので勝手に許してます。

 

ここ最近は作曲と仕事でSuchmosジャアバーボンズを見間違えるぐらいには忙しかったのですが、ようやく落ち着いてきたのでまたボキボキ更新していきたいと思います。

末永くよろしくお願いします。

 

 

 

概要

 

・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。

・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。

・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。

(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。

 

 

 

traveling / 宇多田ヒカル

 

 

 

1998年に15歳でデビューし、翌年発売のアルバム「First Love」は国内アルバム売上歴代1位を記録している、もはや説明不要のシンガーソングライター。

 

宇多田ヒカルがどれほど凄いアーティストかなんて、世の8割強は分かっていると思っているので特に言う事も無いかもなぁと思っていたのですが、やっぱりこの曲については語っておかないと整理がつかないので少しだけ語りたいと思います。

 

 

 

 

二十歳で作る曲のクオリティじゃねぇ

 

 

皆さんは成人式並びに同窓会には参加しましたか。

 

僕は中学の同窓会に参加しましたが、中学の頃僕のことを少し好きでいてくれた女の子が、同窓会で会ったら酒灼けしたカスカスの声の化粧バサバサのキャバ嬢みたいになっていた事があります。

 

一般的な二十歳なんて、ギリギリ善悪の区別もつかないような輩が山ほどいるし、自分が普段聴いている音楽の何が良くて何が悪いかも分からないのが普通の人間だと思うんですよ。

 

話を戻しますが、宇多田ヒカルさんは15歳でソロデビュー。

16歳で日本一アルバムを売り、20歳でこの曲を作っています。すげえ。同窓会で隣にこんな人が居たら僕は韋駄天の如く地を馳せ、家に帰ることでしょう。

 

とはいえ音楽の才能は8割〜9割が遺伝と言われているので、こんなスーパーアーティストの血を受け継いだ人と真っ向から勝負しようなんて思わないですけど、やっぱ悔しいじゃん!?

 

一世代に一人ぐらいはそういう天才が必ずいて、同じ世代でも椎名林檎は二十歳で歌舞伎町の女王を作っているし、野田洋次郎は二十歳で有心論を作っているし、Takaは二十一歳で完全感覚Dreamerを作っているし、ぼくりりは二十歳でぶっ壊れた。

 

 

 

そして、これだけのメンツを並べてもやはり桁が違うのがヒッキーさん。

彼女は二十歳でtravelingを作っているだけでなく、その四年も前に日本一アルバムを売り上げているわけで、ヒットにヒットを重ねてようやく成人式。

なんやねんそれ。ある意味一番荒れてる新成人やんけ。

 

 

 

キャッチーの塊

 

 

実はこの曲、作曲テクニックという視点で見ればそこまで派手な事はしていないんですね。

この方は作曲ガチ勢なので、急にあり得ないテンションコードを入れてきたり、コーラスの和音がめちゃくちゃ凝ってたりするのですが(曲でいうと真夏の通り雨とか)、この曲は基本的に同じコード進行の繰り返しがメインの曲です。

 

この曲の恐ろしさとも言える最大の魅力は、歌メロのキャッチーさにあると思っています。

 

とても耳がいい方なら分かるかもしれないのですが、この曲って明るいノリノリなナンバーの筈なのに、なんか不気味なくらい静かな気がしません?

 

唄声を除いたカラオケバージョンなんかを聴いていると、Aメロなんてベースとドラム以外ほぼ音が鳴ってないし、サビの上モノ(ベースとドラム以外の和音などの音色の事。普通はギターとかピアノが入る)の音は、ほぼコーラスの和音と細いシンセのソロの音しか入ってないんですね。

 

さすがにここ最近のEDMのような音圧はこの時代には無いにしても、他のアーティストと比べても音数が少ないのが宇多田ヒカルの特徴でもあります。

 

意図的かはわかりませんが、この手法は宇多田ヒカルがよく使うやり方で、「Beautiful World」なんかも明らかにバッキングの音数は少ないですよね。

元々ルーツがR&Bだという事もありますが、歌メロがキャッチーな分、余計な音を入れない指向は間違いなくあると思っています。

気付いていなかった方も、もう一度聴いてみると何となく分かるかと思います。

 

 

まあ歌メロのキャッチーさに関してはさすがに了承済みですよね。おいこれのどこがキャッチーなんだね説明しやがれと文句を言われても知らん。

 

まずイントロの〽タッタールの時点で完璧に近いキャッチーさ。何気に最初のタの音がF#でコードCM7に対してフラットファイブの役割を果たしているのも及第点。

そしてBメロでそのタッタールに歌詞が乗り、サビの頭に合いの手のようなフレーズを入れるという大発明。

まさに近未来の乗り物に乗っているようなワクワク感とスピード感。

 

また歌詞の韻の踏み方も素晴らしく、Aメロ「タクシーもすぐ捕まる(飛び乗る)」とか「不景気で困ります(閉めます)」と、韻を踏みながらストーリーを進める辺りほんと仕事ができる人。

 

更にBメロのサビ前には「平家物語」の文章が引用されているのも有名ですよね。

こういう細かいアイデアを盛り込める辺りもさすが。

 

もう減点のしようがないですね。参りました。立派に成人してください。

 

 

 

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6年の活動休止を経て、またアーティスト活動を再開した宇多田ヒカルですが、まだ36歳というのが驚き。[ALEXANDROS]の川上洋平と同い年らしいです。

 

僕が小学生にもなってない頃に母の車の中でかかっていた宇多田ヒカルを、まさかコード進行から解説する日が来るとは思いませんでした。

僕はまだまだ先になりそうですが、とにかく良いメロディーを良い歌声で歌ってもらって評価されるよう努力していく所存でございます。

 

 

今回はこの辺で。次回は「ぐ」から始まる名曲を紹介します。

 

 

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