しりとり名曲紹介 No.22 [夜にダンス / フレンズ]
6月はめちゃくちゃライブに行ってまして。
People in the Box、THE NOVEMBERS、tacica、GRAPEVINE、アルカラ、ストレイテナー、ACIDMAN、THE BACK HORN等々、、
僕を音楽漬けにしてくれた錚々たる方々を見ることができました。あ、あとベッドインも見ました。何回見ても引くほど面白い。おったまげ~!
概要
・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。
・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。
・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。
(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。
夜にダンス / フレンズ
2015年、それぞれ別のバンドで活動していた5人で結成されたポップバンド。
活動休止を発表したばかりのthe telephonesのベーシスト長島涼平が中心となって結成したこともあって、結成当時からけっこう話題になったのを覚えています。
そんなフレンズがバンドとして最初の1曲目に公開したのがこの「夜にダンス」なんですが、新人バンドらしからぬハイクオリティーな楽曲でいきなりヒットをかましてしまいました。それもそのはずこの方たちは新人バンドの皮を被ったゴリゴリのプロ集団ですから。
そんなプロ集団の代表曲であるこの曲なんですが、実は音楽をあまり知らない人に物凄く分かりやすく作られている仕掛けがあるので紹介したいと思います。
ちなみに音楽好きの友達はフレンズのことを「20代のOLしか聴いてはいけない音楽」と言っていました。偏見がすごい。
確信犯のポップセンス
そもそも僕はこのバンドを出鱈目に詳しいわけではないので、割とにわか目線で書かせて頂きますがご了承くださいませ。
フレンズで作詞作曲を務めているのがボーカル兼デブ(ライブで自らおっしゃってました)担当のひろせひろせさんなんですが、長年音楽ばっかり聴いているともう分かるんですよね。こういうポップな見た目でひょうきんなパフォーマンスをしている方は間違いなく物凄い頭の良い策士です。
こういう方は基本的にお笑い芸人のネタ書く方の脳みそをしているので、バンドをよりまとまったイメージにする為だったり単純にキャラ付けだったり全体像をうまく捉えて自分の役割を遂行できるタイプ。あとキレるとめちゃくちゃ怖い。
やっぱりこういう方が書く曲って、ものすごく方向性が分かりやすくてターゲット層がはっきりしていると思っていて。しかも丁度2016年頃から流行り出した「オシャレな夜のシティポップ」的要素もバッチリ組み込んでいて、最早ヒットしない方がおかしいぐらいな完璧なマーケティング。
こういう事を言うと「いや、あの~営業妨害ですね(笑)」とか言いながら汗を拭き始めるのでその弱った所に顎フックかませば1発KOです。
更に先程挙げた「分かりやすさ」という点でもこの曲はピカイチだなと思っていて、具体的に言うとイントロなんですね。
作曲では「イントロで人の心をつかむ名イントロに名曲アリ」を信条としている。(Wikipediaより)
らしいですよ。
要するにバンドで最初に上げる勝負曲でこの信条を破るはずがないでしょうと。誰が聴いてもまず「オシャレ」という印象がつくイントロですよね。
このコード進行自体がめちゃくちゃ斬新という訳ではないですが、ポップスではあまり馴染みのない進行で、ジャズやAORというジャンルで使われる事の多い進行ですね。
そのオシャレ進行に乗っかる印象的な「トゥーットゥーットゥー」というコーラスなんですが、実はここの音階がめちゃくちゃキーポイントなんす。なんすよ。
イントロのコード進行AM7 / Am7 / G#m7 / Cm7 / に対してコーラスの音階が G# / G / F# D# / E / っていう風に動くんですけど、最初の2つのコードのルート音が両方Aに対してセブンス→シックスというテンションの役割を持つ音階で下っていってるんです。
(何を言っているかさっぱり分からない方は全く気にすることなく次の文章を読み進めてくださいませ)
要するにこのコーラスが入る事によって、イントロのコード進行のお洒落感がより強調されて分かりやすくなるという事。
”セブンスとかシックスの音階”っていうのはそういう物くらいの認識で構いません。
こういった音楽理論的な仕掛けまで駆使して世間にオシャレ夜シティポップを浸透させたひろせひろせという男がどれだけすごいか分かっていただけたと思います。
そして皆さんがもうあのひょうきんな方を、本当はゴリゴリの戦略家なんだなと、ちょっと気を遣った目線でしか見れなくなったのなら、僕はこの記事を書いてきた甲斐があったと思えるのです。
***
今回はここまで。次回は「す」から始まる名曲を紹介します。
しりとり名曲紹介 No.21 [読書 feat.星野源 / 宮内優里]
暑くなってまいりましたね。もうすぐ世間は夏休みだフェスだビーチだ大忙しですが、果たしてブログなんて書いてていいんでしょうか。
まあフェスは行くんですけどね。サマソニ盛り上がっていこうぜ。
概要
・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。
・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。
・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。
(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。
読書 feat.星野源 / 宮内優里
1983年生まれ、映画やCMへの楽曲提供の傍ら2006年にアルバム「parcage」をリリース。
生演奏と多重録音を駆使したサウンドが音楽関係者の間で支持され、2011年にリリースされたアルバム「ワーキングホリデー」では、YMOの高橋幸宏や原田知世といった面々とのコラボ楽曲を多数収録し話題となりました。
そのアルバムの中でもやっぱり一際目立った楽曲が、この「読書 feat.星野源」でございます。星野源ですから。目立たざるを得ないですよね。
2011年というと、星野源のファーストソロアルバム「ばかのうた」の翌年という事で、世間ではまだまだ認知される前の作品ではありますが、今では知らない人はいない程の国民的アーティストになられてしまわれました。
この「読書」という曲は、そんなお源さんの歌声が、とてつもなく良い相乗効果を産み出している楽曲だと思います。これを知った皆さんは、これからこの曲を聴かずにファンを自称してる女は全員見下していただいて結構です。
耳が喜ぶ音作り
そもそも、宮内優里さんの作る音楽はエレクトロニカと呼ばれるジャンルに分類されることが多いですが、宮内さんがやっている事は簡単に言うと、エレクトロニカと生演奏の融合みたいなもの。
打ち込みやサンプリングで地盤となるトラックを作っておいて、メインのフレーズや和音はギターや鉄琴などの楽器をそれに合わせて演奏する事によって楽曲を作っています。
イヤホンで聴くと分かると思いますが、中盤辺りから細かい音が左から右からカタカタ聴こえてきますよね。これがエレクトロニカではよく用いられる手法。クリックとかグリッチと呼ばれる電子音特有のノイズみたいな音。
僕は恐らく長年の音楽漬け生活の末、耳にある程度の刺激を感じる音でないと興奮できない体に魔改造されてしまったので、こういうグリッチ音やノイズが非常に気持ちいいと感じるのですが、普通に聴いている方は別に気に留める必要はありません。黙って星野の声だけ聴いていてください。
そんなエレクトロニカの音作りに、心地良いアコースティックギターが加わる事によって、何とも心地良い宮内サウンドが完成するのです。
エレクトロニカにありがちな、閉鎖的な雰囲気だったり冗長な感じが宮内さんの楽曲には全く無くて、基本的に明るい開放的なコード感で短い楽曲が多いのも魅力。音楽通を決め込みたい男子諸君は是非ともドライブなんかでかけちゃってくれよな。
さらにライブでは多重録音を用いて、生でトラックの上にアコースティックギターや効果音を一つずつ重ねていってその場で楽曲を作っていく即興スタイル(YouTubeにもライブ映像があるのでこちらも見て頂きたい)。実際ライブを見ているとかなり生音感があって、音源と違った響きにもなります。
電子音だけでも生音だけでも出せない、絶妙な温度感が宮内優里さんの楽曲の特徴でもあります。
やっぱり源くんは天才でした
なんだろう。悔しいな。
この曲の作曲はもちろん宮内さんなのですが、作詞は星野源なんですね。
この記事を書くにあたって改めて曲を聴いていたのですが、もちろんメロディー、音は満点。ただよく考えたらこの歌詞すげぇぞと。
まさに小説のような文体や比喩がこれでもかと多用されたインテリジェンス溢れる言葉遣いに、まさに絵本のようなファンタジックで幻想的な世界観。
本を読みながら寝落ちした次の朝というコンセプトが、音像ともベストマッチしていてこれ以上ない完璧なシチュエーションを描いて見せやがる。
1サビ前のBメロ「小さな不安と 喜び今日もおはよう」なんて星野源史上一番エモい表現なんじゃないですか?元々小説や書き物が好きな方である事は有名ですが、ここまで手加減しないのは卑怯じゃないですか。
歌詞の題材としては斬新な「読書」というテーマを、ここまで音楽的に表現できるのは本当にすごい。勝ち目がない。
こんな名曲を知らない輩がファン名乗ってたらそりゃあ見下したくもなりますよ。
ただ、これを知ったあなたはもう堂々とファンを名乗っていきましょう。僕はそこまでファンじゃないです。ごめんなさい。宮野真守の方が好きです。
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今回はここまで。次回は「よ」から始まる名曲を紹介します。
しりとり名曲紹介 No.20 [tiny pride / クラムボン]
あっという間にこのシリーズも20本目となりました。めでたい。
あんまり実感はないかもしれないけど、1本目から曲名を繋いでいくと本当にしりとりになってますからね?僕そこだけはズルしないですからね?
もし見逃している記事などありましたら、記事のタイトル下にある「しりとり名曲紹介」という所をタップすると過去の記事にも飛べたりしますので、これを機に一気読みしてみるのも乙ですよ。
概要
・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。
・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。
・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。
(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。
tiny pride / クラムボン
1995年結成、1999年にシングル「はなれ ばなれ」でメジャーデビュー。2019年現在までオリジナルメンバーのままで活動している3人組バンド。
ピアノボーカルを担当する原田郁子さんの伸びやかで愛嬌のある歌声と、作曲を主に担当するベースのミトさんの多様なソングライティング、ドラム伊藤大助さんの超絶技巧派フレーズが特徴で、ミュージシャンや音楽関係者がこぞってフェイバリットに挙げるバンドでもあります。
2000年代前半のバンドとかマニアックな音楽を聴いている音楽好きなら、かなりの割合で認知されている、と勝手に思っているのですが、思いのほか深く聴きこんでいる人が少ない印象で、この曲もあまり知られない気がしているんですが。
本当に名曲だと思うんです。
センスの結晶
クラムボンの音楽性を一言でいうなら、ハイセンス。というのも、優れたミュージシャンの尺度とはまた少し違って、売れ線の筆頭にいるバンドとかシンガーの方って、ポップでキャッチーなメロディーを作る才能やセンスも勿論あるのだけれど、ある程度大衆に知られる為に工夫したり、何かしら需要に合わせた供給が成り立った結果多くの人の評価を得て売れているわけで。
まあ早い話が、音楽そのもので100%大衆に響かせてそれが100%何の誤解も無く「良い曲だね!」と響いて評価されるという事ではないということなんです。
特に近年では、音楽を手軽に聴く人口が増えたこともあって、MVだったりお笑いの要素を取り入れたりと、音楽に対する「付録」で大衆を引き付ける手法は増えています。
それを踏まえた上でMVやライブ映像を見て頂ければ分かると思いますが、クラムボンの音楽はそういった「付録」を一切付けずに活動しているバンドで、メジャーデビュー以降ほとんどタイアップも付けず、ひたすら完成度の高い作品を作り続けて一部の音楽ファンを虜にし続けているのです。バンドのコンポーザー的存在であるミトさんはそれを意図して戦略としてクラムボンというバンドを動かしていました。マジでカッコよすぎるでしょ。憧れないわけないでしょ。
クラムボンの三人は音楽専門学校のジャズ科出身という事もあり、音楽の知識や教養は三人ともバケモノ級。マジで三人合体させたらオベリスクの巨神兵ぐらいのステータスになると思います。
中でも、この楽曲「tiny pride」以外にもクラムボンの代表曲のほとんどを作曲しているベースのミトさん。この方の知識やテクニックは音楽業界でも指折りの存在らしく、木村カエラさんや花澤香菜さんへの楽曲提供やサウンドプロデューサーやミックスエンジニアとしても活躍する、凄腕中の凄腕。
唯一の欠点は、ライブで頻繁に情熱的になりすぎてベースを破壊してしまう事ぐらい。それだけは心配しています。
余白を楽しみなさい
クラムボンの音の魅力は色々あって、曲とかアルバムごとに違った方向性があるので一概には言えないんですが、クラムボンの音には余白とか空白が効果的に取り入れられていることが多く、それが堪らなく素晴らしい緊張感と寂しさを感じさせられます。
特にこの「tiny pride」には、まさに雪の降った朝のような静けさ、ピンと張り詰めた空気感みたいなものを感じますよね。
イントロのアコギ一本でコードをストロークする音の隙間に、微妙な周りの音や空気感が混じって聴こえてくるような感覚から、サビに入る瞬間に一瞬のブレイクを挟んでドラムとベースがドカッと雪崩れこんでくる構成はまさに緊張からの緩和、ミトさん流SMプレイに翻弄されてしまうわけです。
クラムボンの中期~後期にかけての楽曲は特にこの手法が多く使われていて、前半めちゃくちゃ静かな導入から後半は音量マックスで迫力のある展開に持っていってしまうのです。なのでミトさんがライブで演奏が高ぶりすぎて雄叫びをあげたり、ステージから落ちそうになるぐらい暴れ回るのも必然と言えるのです。街中でベースを弾きながら地面に首だけ埋まっているミトさんを見かけてもそっとしておいてあげてください。それはクラムボンの楽曲がドラマチックだからなのです。
勿論、この曲の魅力は音使いだけでなくメロディー、歌詞においても100点満点。誰かこの曲の悪いところを指摘できるものなら指摘してみてほしい。僕は見つけられそうにないです。
歌い出しのフレーズ「どうにかここまで 君と歩いてきたね」という一言で、クラムボンというバンドが如何にメディア戦略を一切執らず、純粋に音楽として高いクオリティを志して活動してきたか、その歴史と誇りがこの余白に表れている気がします。
もしも世界にこの三人だけになってしまっても、音を鳴らせる喜びは変わらないだろうし、それがこれまでやってきた活動そのものである事の証明のような。
三人以外に何も映っていないMVにも、そういったメッセージが込められているように思います。ただのアルバムの中のバラード曲ではない、クラムボンの並々ならぬ決意を感じる1曲。
***
今回はここまで。次回は「ど」から始まる名曲を紹介します。
しりとり名曲紹介 No.19 [空中レジスター / the pillows]
今日もYouTubeとテレビを同時に見ている皆さんこんばんは。
このブログの記事も結構溜まってきて、まとめ読みするにも楽しいぐらいにはなったでしょうか。
ところで、最初の頃は毎週水曜日更新を目指していましたが、諸事情により毎週金曜日更新がメインになっていくかと思います。これからも趣味を生きがいに下積みを頑張ります。夢見るおちょぼ口。
概要
・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。
・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。
・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。
(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。
空中レジスター / the pillows
空中レジスター 【the pillows】 - ニコニコ動画
時は平成元年であります1989年に結成、1991年にメジャーデビュー。今年結成30周年を迎えられた大ベテランロックバンド、フリクリおじさんことthe pillows。皆さんご存知でしょうか。
Mr.Children、LUNA SEA、フラワーカンパニーズなど、四半世紀に渡って活躍するバンドが多数結成された89年組。ちなみに芸人だと雨上がり決死隊や千原兄弟などが同期だそうですよ。
ピロウズといえば日本のバンドの中でもかなりの多作でありまして、これまでに22枚のオリジナルアルバムと38枚のシングルをリリース、バンドとしての総楽曲数は約330曲。すぎょい。
そのほとんど全楽曲の作詞作曲はボーカル山中さわおさんが担当しています。
さわおさんはピロウズ以外にもTHE PREDATORSという別バンドやソロ活動もしており、それらの楽曲を含めると実に400曲近い楽曲をリリースしています。恐ろしや。
そして、そんな約330曲の楽曲をすべて持っているぐらい、筆者はthe pillowsが大好きです。サンキューバスターズ!
不変の普遍
空中レジスターは、2005年にリリースされたアルバム「MY FOOT」に収録された楽曲。ちなみにこのアルバムはピロウズの中でも1番好きなアルバムで、初めて聴くには最適な1枚だと思うので興味のある方は是非とも聴いてみてください。本当にFunny Bunnyだけじゃないんですピロウズは。
そして本題のこの曲なんですが、びっくりするぐらいシンプル。過去にこのブログで紹介した曲に多く見られた複雑な展開だったりコードワークだったり演奏技術だったりは、この曲にはほぼありません。
冒頭からいっせーので全員同時に楽器が鳴りだし、楽曲の構成もAメロ主導のシンプルな展開で、ビートルズとか昔の洋楽っぽい曲構成。
ピロウズの音楽的ルーツには、ピクシーズやニルヴァーナなどのオルタナティブロックの影響が濃いこともあり、楽曲の構成や演奏はシンプルな楽曲が多いのも特徴の一つであります。
これだけシンプルに細かい要素を削って、メロディー、歌詞、リフだけの要素でどえらいカッコいい楽曲に仕上げる技を、ピロウズは実に30年以上ずっと変わらずやり続けているのです。
決めつけた言い方をするなら、素人には真似できない。後輩バンドがピロウズの音楽性をリスペクトしようとすると完全にピロウズになってしまう。僕はこれをバスター菌と呼んでいます。
年をとるにつれて、発泡酒が美味しくなったりコーヒーは基本ブラックになるけれど、結局コアラのマーチが一番美味いし、それを忘れる事はないんです。僕にとってそれがピロウズなんです。
比喩の天才
ピロウズの歌詞は名作がとりわけ多いのですが、この曲の歌詞はピロウズの中でもかなり完成度が高いと思います。2分半というコンパクトな時間の中に、ピロウズの世界観とニヒルな切り口が無駄なく詰め込まれていて、誰が読んでも一目で分かるインテリジェントな面と、歌として口ずさんでも心地良いリズム感がある作品です。
代表曲を知ってる方は分かると思いますが、山中さわおの書く歌詞の中には比喩表現や寓話的表現が多く見られます。王様とか神様とか、空想めいたワードが頻出単語なので皆さん覚えておきましょう。
この曲の歌詞の冒頭からもいきなり「鳥になって」という上級者レベルのファンシーな比喩が飛び出すわけですが、もう最後までずっとファンシーな世界観、かと思いきや
「汚れた空気も吸うしかなかった」
という1フレーズで、グッと現実に引き戻される感じがしますよね。僕はここの歌詞を聴いてめちゃくちゃ感動したのを覚えています。
山中さわおさんの作る曲は基本的に誰かへ向けたメッセージソングではなく、さわおさん自身の視点で見た世界や体験を、主観的な視点で書いた歌が多いんですね。
空中レジスターのようなハチャメチャな肯定ソングも、初期の名曲ストレンジカメレオンのような狂気じみた内向ソングも、誰に向けるでもないさわおさん自身の物語をフィクションめかせて歌っていることで、一見ポップな語感に聴こえるけれど中身は生々しいさわおメソッドの完成という訳です。
これだけセオリーに基づいていながら、曲として聴くと本当にシンプルにメロディーの邪魔をせず歌詞として成立しているのがすごいところ。言葉選びが本当に的確で丁寧なんですよね。
ちなみに歌詞がうまくハマらない時は「アウイェー」を連呼するさわおメソッドもありますので興味のある方は深く掘り下げてみてはいかがでしょうか。
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今回はここまで。次回は「た」から始まる名曲を紹介します。サンキューバスターズ!
しりとり名曲紹介 No.18 [ジムノペディック / 藍坊主]
今年も暑い季節がやってきましたが、梅雨明けまでは部屋のクーラーを絶対に付けないという重いカルマを背負っている皆様の悲鳴が私には聞こえます。
そんなガラス玉粉々にぶち砕いて、休日の昼間ぐらいは涼しい部屋でSyrup16gでも聴きましょう。神のカルマだけに。
概要
・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。
・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。
・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。
(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。
ジムノペディック / 藍坊主
1999年結成、2004年にトイズファクトリーからメジャーデビューした4人組ロックバンド。
バンド名は、高校生の時に組んだザ・ブルーハーツのコピーバンド「ザ・ブルーボーズ」のブルーを"藍"に、ボーズを"坊主"に変えたものが由来となっています。
この楽曲は、2006年にリリースされたアルバム「ハナミドリ」に収録された楽曲。藍坊主の中でも屈指の名曲とファンの間で評価されることの多い、とても人気の高い曲の一つ。
かくいう筆者も藍坊主のファンで、シングルも全部持っているほど大好きなのですが、ジムノペディックは藍坊主の中でも3本の指に入る傑作だと思います。
ただ、藍坊主の歴史というかサウンドの変化について、初見の方には説明しないとややこしい大きな変化があるので簡単に説明します。
深化する哲学世界
初期の藍坊主は一言でいうと、青春パンクを軸にしたストレートで男臭いロックをやっていました。この頃から作詞作曲を担当するのはhozzyこと佐々木健太(Vo.)と、藤森真一(Ba.)の二人が主ですが、二人の曲にはっきりした違いはありませんでした。
そこからメジャー2ndアルバム「ソーダ」をリリースするのですが、このアルバムの収録曲の一部から、hozzyこと佐々木健太(Vo.)の歌詞が難解で哲学的な内容に変化します。
アルバム中の「水に似た感情」という楽曲は、サウンドからも青春パンク期の面影がまったくないほど実験的で不思議な曲になっています。良曲。
そこからメジャー3rdアルバム「ハナミドリ」、4th「フォレストーン」、5th「ミズカネ」と、hozzyの哲学世界はどんどん深みを増していき、藤森真一は対照的にストレートで分かりやすい歌詞とサウンドを極めていきます。
hozzy氏はこの辺りから"エスペラント語"という言語を使用した曲名や歌詞を多用するようになり、完全に「何言ってんだこいつ」状態の曲もたまーにあります。
気になる人は"シータムン"で検索してみよう。
というように、中期から後期にかけて藍坊主というバンドの中で音楽の方向性が二極化するという珍しい現象が起きたのです。
ここが藍坊主の難解な部分であり、ものすごい大きな魅力だと思います。もちろん色んな意見があるだろうけど、一つのバンドでこなす音楽の幅が広いのは単純に実力とチームワークが優れているからできることですよね。
さて、ここからはようやくジムノペディックの本髄をしゃぶり尽くしていきたいと思います。
無機質な叫び
この曲のタイトル「ジムノペディック」という言葉はhozzyによる造語で、作曲家のエリック・サティの楽曲「ジムノペディ」が元となっています。この曲の歌詞にも"サティのピアノ曲"というフレーズが出てきますね。
このサティという作曲家の楽曲は、印象主義という現代音楽におけるジャンルみたいなものに属していて、印象主義っつうのは簡単に言うと静止画や風景画をイメージした音楽性で、無機質でリズムのない音楽みたいなことです。分かんない人はジムノペディを聴いてくれ。おしゃれなYouTuberとかがよく使ってるアレです。
要するに、このジムノペディックという楽曲が前提として、サティの楽曲のような無機質で静的な世界観を表現しているんですね。この時点で青春パンクのパの字も無いほど実験的な音楽なんですよね。暗いよ。曲が。単純に。
そしてここでも健在hozzy氏の哲学世界。ベースは情景描写や抽象的なイメージもありながら、明らかに他者に何かを訴える熱みたいなものは感じられますよね。
別に世界は何の変哲もないいつもの世界なんだけど、それが何かの拍子で不満に感じたり怖くなったりするような、何も違和感がないという違和感みたいなものを訴えかけているような気がするんですよね。
1サビ2サビの最後、「もう一度君に会いに"行く"」のではなく、「会いに"くる"」という言葉で締めているのも、何か哲学的な意味を感じる締め方でグッと来るものがあります。実に奥深い。藍坊主。
かといって曲が難解な訳ではなく、メロディーや展開はポップスとして誰もが耳にスッと入るキャッチーさがあって、別にクラシックとか印象なんちゃらとか何も分からなくても、何となくで感じられる冷たさとか体温の無さみたいなものが音越しに伝わってくる感覚がありますね。
藍坊主の音楽的構造はシンプルに見えてめちゃくちゃ奥深くて、単純にピアノやシンセの音数や配置もめちゃくちゃ凝ってて、高校生の頃に中期の藍坊主のアルバムのバンドスコアを見たことがあるんですが、後にも先にもロックバンドのドラムのフレーズで5連符が出てきたのは藍坊主だけです。誰が再現できんねんと。
そんな音楽的造詣に長けたメンバーだからこそ、パンクからポップスからプログレまで幅広い音楽性を一つのバンドとしてまとめ上げることができていると思います。
現に最近のライブでも初期のパンクナンバーをよく披露するし、ファンもそういう曲が来たら一気にパンクのノリに変わってモッシュが起きたりします。そういう意味では一番すごいのはファン。
***
藍坊主というバンドを初めて知ってくれた方、初期から聴くか後期を聴くか、まずは好みだなと思った方から聴いてみてください。
初期は「鞄の中、心の中」、後期はアニメTIGER&BUNNYのエンディングにもなった「星のすみか」辺りが代表曲かと思います。
どちらも違った魅力があります。どう聴いても別バンドだけど。
今回はこの辺で。次回は「く」から始まる名曲を紹介します。
しりとり名曲紹介 No.17 [shower beige / Spangle call Lilli line]
世はあけおめムードでございますが、ゴールデンウィークが早くも終わりを迎えようとしています。心の準備はできていますでしょうか。私はできていません。
令和元年、一発目のしりとり名曲紹介は、久々のマニアック選曲でございます。
GW明けのダウナーな気分を癒すような透明感のある楽曲をセレクトしました。
概要
・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。
・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。
・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。
(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。
shower beige / Spangle call Lilli line
1998年結成、2001年にアルバム「Spangle call Lilli line」をリリース以降、約20年間インディーズで作品をリリースしているバンド。
まずこんな読みづらくて長い横文字のバンド名を所見で見て記事に飛んでくださったあなた、素晴らしいセンスをしています。
わしらスパングルコールリリーラインっちゅうもんでして、名前だけでも覚えて帰ってくださいね言うてますけども。
スパングルの特徴と言えば、ボーカル大坪加奈さんの浮遊感漂う声と、抽象的な単語が連なったような歌詞、ピアノとシンセが絡んだポストロック寄りのサウンドなどが挙げられるように、いわゆる普通のロックバンドとは異なる音楽性のグループと言えます。
この曲は2010年にリリースされたアルバム「VIEW」からの1曲。このアルバムはポップをテーマに製作されたアルバムで、同時期にリリースされた「Forest At The Head Of A River」というアルバムは、対照的に長尺でマイナーな曲が収録されています。
ここ最近このしりとり名曲紹介シリーズでは「ここがこうなっててすごいんだよ!」という風に、かなり事細かに理論立てて曲の解説をしていたんですが、この曲に関してはあんまりそういうのをしたくないというか、するべきでない曲だと思うんです。
この抽象的で説明のつかない感じがスパングルの良さなので、とにかく聴いて気持ち良いという事だけ理解してくれればそれで正解だと思います。
まぁ歌詞に関しては例によってまったく文脈のない単語を並べた感じなので、興味のある方は調べてみてください。
とはいえ、何かしら文字にして良さを伝えないとブログとして意味がないので、もうちょっとだけ彼らの良さを掘り下げていきたいと思います。
音楽は趣味
彼らの大きな特徴がもう一つあって、メンバー全員がデザイナーやカメラマンなど音楽とは別の本業を持ちながら活動しています。
本業の方で経済的に自立していて、音楽活動を趣味と自ら公言するほど自由度の高い活動を続けています。
メジャーレーベルに所属すれば、もちろんテレビやインターネット等様々な面で力を入れて自分たちを宣伝してくれる、いわば楽して有名になれる環境になります。もちろん実力は不可欠だけど。
ただその分、会社に貢献するために売り上げを気にしながら定期的にリリースや宣伝活動を休みなくしなければならないし、そもそも会社と契約した時点でメジャーデビュー=就職であるので他の仕事で生計を同時に立てるのは不可能なんですね。
彼らはそんな「売れれば大金持ち、売れなければ終わり」みたいなギャンブリング精神とか根性論みたいなやり方でなく、より地に足着いた自由なやり方で音楽を作っています。
スパングルはライブ活動が他のバンドに比べてかなり少なく、2010年にはライブ活動の休止も発表されました。2015年以降は年に数回ペースでしかライブを行っておらず、製作メインでの活動を続けています。
音楽一本で生計を立てるとすれば、音源の収益だけでは難しく、年1回はツアーを回ってグッズやCDを売って生計を立てなければいけないのが現実。バンドって普通の人が思っている以上にしんどいんですね。
もちろんスパングルのメンバーが楽をしているとかいう話ではなくて、本業はCDジャケットなどのデザイナーとして活動しているギターの藤枝憲さんは、インタビューで「僕の場合、音楽はガス抜きですね。12時間仕事でモニターを観てるんで。」と答えています。要するに音楽を仕事として成立させることの苦しみや大変さを分かっているがゆえに、あえて音楽とビジネスを切り離してよりダイレクトに音楽を楽しみたいという意志で活動していると言えますね。
僕は彼らのスタンスを大変リスペクトしていますし、そこら辺の売れることばっか考えて流行ってるバンドの美味しいところだけ雑に切り取ったようなジャンキーな音楽やってるバンドよりよっぽど売れてほしいと思っています。言うてますけども。
***
今回はちょっといつもより短めになりましたが、とにかく説明するのが野暮なバンドなので、聴いてくれ!という記事でした。
スパングルの曲はどれもゆったりとしていて、窮屈で忙しない日常社会を忘れられるようなトリップ感を味わえるので、最近の音圧ギッチギチなポップ音楽に耳が疲れている方も是非聴いてみてください。
次回は「じ」から始まる名曲を紹介します。お楽しみに!
【CCCD、PLAYBUTTON、、】平成に置いていきたいJ-POP業界の黒歴史 【覚えてる?】
皆様ごきげんよう、落第です。
さて、元号が変わるというのに家で連休を持て余している皆様方に、わたくしはそんなあなた方の為にブログを書かせて頂きました。
本日2019年4月30日は、第125代天皇である今上天皇が退位される日でございます。
つまり翌日5月1日より第一皇子にあたる皇太子徳仁親王が第126代天皇として即位され、元号が令和へと変更される歴史的な日であります。えぇ。
そんな平成最後の記事という事で、ちょっと平成を振り返るような記事にしたかったのですが、いつものように曲を褒めるだけの「平成の名曲トップ20~!!」みたいなのはDAMチャンネルでやってくれればいい話なので、今回はいつもと違った視点で、平成を振り返ってみようと思います。
平成に置いていきたいJ-POP業界の黒歴史
先に言っておくと、今回の観点は音楽そのものの変化とか黒歴史の話ではなく、ざっくり言えばCDとかMDとかストリーミングサービスとか、音楽を聴く手段として色々開発されてきた物の黒歴史の話です。
まあ音楽そのものの話が聞きたかったという人もいるかもしれませんが、多分邦楽で一番の黒歴史はヘキサゴン関連のやつだと思います。
音楽を聴くツール、規格は平成に入ってからの30年間で一気に変化しました。
80年代前半にレコードからCDへ普及し、CDセールスの全盛期が20年ほど続きます。それから徐々に衰退し、ここ数年でインターネット上での音楽配信サービスの普及が進んでいきました。
その間に音楽業界というのは色んな試行錯誤をした訳です。そこには勿論失敗に終わった物や、今や生産されなくなった物が沢山あります。
今日はそんな音楽業界が忘れ去りたい黒歴史を一気に掘り起こして、新しい時代に同じ失敗を持ち越さないように、綺麗さっぱり水に流してしまおうという有難い記事なのです。
まずは代表的な黒歴史から紹介したいと思います。
File No.1 『CCCD』
コピーコントロールCDといいます。日本の音楽業界がやらかした代表例ですね。
YouTubeで「CCCD」で検索すると一番上の候補に「CCCD 黒歴史」と出てくるほどこの大馬鹿者に対する世間の風当たりは強く、これを知っている人にCCCDという言葉を投げかけたが最後、右手の音叉で殴られてあなたは死にました。
どういう物なのか簡単に言うと、パソコンに音楽をデータとして取り込めないように加工してあるCDの事で、不正にデータを共有する行為への対策として生まれたものでした。
2002年頃、パソコンとインターネットが大幅に普及して、音楽の違法アップロードが問題視され始めた時に、avexを始めとする大手レコード会社の人たちは「そもそもパソコンにデータが取り込めるからいけないんだ!どうにかして曲自体を取り込めないようにするのじゃ!」と意気込んだ結果完成したのがコレ。
何がヤバいって、取り込めないようにする為の仕組みが狂ってて、CDの中のデータに意図的にエラーを仕込ませる事によってCDがパソコンに誤作動を起こさせてコピーができなくなるという不良品まがいのシステム。
更にそのエラーを仕込ませた事によって、音質に分かりやすい劣化が生じたり、しまいには普通のCDプレイヤーでも再生できないこともあったそう。完全に不良品です。本当にありがとうございました。
2002年から2004年頃まで、avexやEMIなど大手レコード会社からリリースされたシングルやアルバムには、かなりの数がこのCCCD規格でリリースされましたが、上記の理由から消費者だけでなくアーティスト側からも反感を買い、更にはiPodの爆発的ヒットによりCDの合法的なコピー需要が高まり、CCCDは2006年頃から姿を消したのでありました。
くるりの岸田繁さんがツイッターで当時のCCCDへの不満についてかなり赤裸々に語っていたツイートがありましたが、やはり当時からこれをポジティブに捉えていたのはレコード会社側の人間だけだったと言えると思います。
いかに当時のCD業界が絶対王政だったかという事も。。
File No.2 『CD-EXTRA』
この時代の失敗した規格にありがちな、名前だけカッコいいパターンの典型例、その名もCDエクストラ。チャキーン。
仕組みとしてはCDの中に音楽データだけでなく、パソコンで再生できる映像データや画像データが入っているというもので、当時DVD付き初回限定版みたいなのはそこそこあったものの、DVD自体の原価がちょっと高い時代でした。
そこで生み出されたこの大発明。一体なぜ失敗に終わったのか。
理由は大きく2つあって、1つは動作が不安定だったこと。実はこのCDエクストラ仕様のシングルCDを何枚か持ってて、パソコンで再生しようとしたんですけど、見れるものと見れないものがあったりしました。
そしてもう1つは、ご存知YouTubeの登場。
こればっかりは音楽業界は悪くないと思う。こんな便利な物生まれると思わないですよね。
CDエクストラが最盛期だったのが2005年辺りで、その年にYouTubeのサービスが誕生してるんですね。
当時はまだ公式チャンネルなんて一つも無い時代なので、PVとかは全部違法アップロードだったのですが、あまりに手軽に投稿できるしあまりに手軽に視聴もできるという事で、2010年ごろから音楽業界もYouTube市場に乗り換えていきました。
一時期は時代を作りかけていたCDエクストラも、デジタルの流れには逆らえませんでした。
あと、普通に超画質悪かったしあんまり良いとこ無かったです。
File No.3 『NETJUKE』
これ、持っている方いるんでしょうか。僕は是非とも見てみたいんです。
先程までのCDそのものの規格ではなく、2006年頃登場したSONY製のオーディオ機器その名もNETJUKE。
その機能はと言うと、CDプレイヤーとMDプレイヤーの他にHDDドライブが内蔵されており、CDを録音し保存ができるという、いわばジュークボックスのような機能が一つ。
更にインターネット環境があれば、中央にある小さいモニターで音楽をダウンロードできる(いわゆる着うたフルがダウンロード可能)という夢のような1台。
更に更に、後発の進化版ではFM/AMラジオが受信でき、そのラジオの「音声部分」と「トーク部分」を自動判別して録音できる機能もついていたそう。ガチですごい。
このように、とにかくあらゆる用途で色んな音楽を取り込んで、それをすべて1つのストレージにまとめて、どれも好きな時に再生できるように作られた音楽マニア向けのオーディオプレイヤーだった訳です。
これに関しては黒歴史というほど駄目じゃないし、当時小学生の僕がもしこれを知っていたらめちゃめちゃ欲しかったと思います。
こんなハイテクな代物が売れなかった理由は、やはりパソコンの手軽さには敵わなかったという点に尽きると思います。
NETJUKEでは再生可能なMDも、パソコンで再生できないという理由で需要がめっきり減ってしまい、パソコンですべて事足りてしまうようになったんですね。
登場が2006年と新しいからか、今現在このNETJUKE自体にプレミアがついている訳ではありませんが、10年後ぐらいにはマニアからの需要が高まって、超高値で売れるかもしれませんね。
あと当時NETJUKEのCMが放送されていて、それがとてもハイセンスで好きでした。若かりし頃の女優の波瑠さんが出演しています。
File No.4 『PLAYBUTTON』
今回の記事の個人的な大本命と言ってもいいでしょう。ご存知ですか、PLAYBUTTON。
最初のCCCDのように反感を買うものではないですが、黒歴史という本来の語意にはある意味1番沿っているアイテムではないでしょうか。
2011年頃に開発され、CDに代わる新たな音楽再生メディアとして試験的に導入していたデジタルオーディオプレイヤー、それがPLAYBUTTONなのです。
有名どころだと、安室奈美恵の2012年のアルバム「uncontrolled」がCDと同時にPLAYBUTTON版をリリースし、話題を集めませんでした。
その仕組みは至って簡単。缶バッジのような形、大きさの商品にイヤホンジャックが付いていて、そこにイヤホンを挿すと自動的にアルバムが再生されるという物。
容量の限界は256MBと、FLACファイルでフルアルバムがギリギリ入るぐらいなので、別にCDよりいっぱい曲が入るとかいう訳でもないそうです。失笑。
中身のストレージは一切消したり追加したりできないという点ではCDと変わらないですが、一応カバンに付けて持ち運んだりできるのでそれなりに便利な品ではあると思うんです。思うんですが、、
確実にスマホで聴ける方が便利なんですよね。
冷静に考えたら誰でも分かりそうな事なんですが、大手レコード会社が多数決で流行る方にベットした結果販売にまで踏み切っている訳ですから、ビジネスとは難しいですね。
だいたいそれなりに音楽が好きな人ならアルバムだけでも100枚以上は取り込んでいるのが普通であって、1枚1枚カバンに貼り付けてたら物凄いハッピーな人だと思われるに違いないよ。
せめて容量をもっと増やして、アルバム2枚分の曲数が入ってるとか、ワンマンライブの音源がフル尺で入ってるとか、そういうCDと差別化した商品があれば手に取る人も増えるかもしれなかったのですが、
なんかもう「CDの時代は終わった」と言わんばかりの皮算用で踏み切ってしまったのが、PLAYBUTTON最大の敗因と言えるでしょう。
そして何より、僕の敬愛するロックバンドGRAPEVINEが2012年に出したベストアルバムの初回限定盤に付いていたカップリング集「OUTCAST 2.0」が、このPLAYBUTTON形態のみでの収録だったことが、僕をここまで怒らせた理由でもありますよ。
逃がさないっすよ?先輩。
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ここまで駆け足で紹介させて頂きましたが、共通して言えることは、音楽業界はいつの時代もCDを売る事を念頭に試行錯誤を繰り返しているということです。
今の時代CDが無くても、CDがあった時代以上の自由度と楽しさを提供できるように進化しています。
定額ストリーミング配信の普及が進んだここ数年では、もはや配信で音楽を買う必要すら無くなるかもしれないほど、CDの需要は遠ざかっていく一方です。
ただ、音楽業界は、ただただ、もう、ただひたすら、あの時の栄光を忘れられないんです。
3つ刺さった串だんごが上から長男次男三男であることを説明しただけの歌が350万枚も売れたあの栄光を忘れる事ができますか。
日本の全世帯のうち10世帯に1枚このCDを持っていた計算になります。
日本一売れた宇多田ヒカルのアルバム「First Love」に至っては765万枚。5世帯に1枚ですね。アパートの全部の階のどれか1部屋は持ってたんでしょうかね。
昨今CDが売れない、音楽不況だと騒がれていますが、当時のCDバブルを体感していない自分からすれば、よっぽど今の方が正常だと思っちゃうんです。ゲームソフトみたいにダイレクトに刺激を体感できる娯楽でもないし。
確かにCDを売る事は売り手にとってもアーティストにとっても大事だし、僕もCD大好き人間なのでCDが綺麗さっぱり無くなってしまうのは絶対に嫌なのですが、
単純にその考えが強すぎた結果、このような失敗を産み出してしまったのです。
極端な話、今でも飛び抜けた名曲がリリースされれば100万枚売れると思っているのです。
じゃあ何故近年のCD需要が下がっているかというと、やはり消費者が手軽に音楽を聴く方に圧倒的に需要があるからなんですよね。
YouTubeあれば有名な曲は聴けるし、すぐ消されたりするけどアルバムの曲も聴けたりするじゃん、という圧倒的情報弱者の増加により、シングル曲とアルバムのリード曲以外の曲が聴かれないという状況が生まれつつあります。
これに関しては消費者側の問題なので、そこへの対策は必要だと思っています。
CDは単純なコレクションアイテムとしてだけでなく、YouTubeでは聴けないシングルのカップリングに隠れた名曲があったり、歌詞カードが凝っていたり、初回盤のDVDが貴重な映像だったり、CDを買わないと味わえないアーティストの魅力みたいなものも沢山あるので、そこをもっと情報弱者たちに伝えられれば業界も潤うのではないでしょうか。
もう不正コピー防止の為だけに音質を犠牲にするような暴挙に出ない事を祈っています。
そして新しい時代の新しい音楽が広がることを心から楽しみにしています。
良い事言った。
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とても長い記事になってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
令和元年もブログはバシバシ更新していきますので、今後ともよろしくお願いします。