2022年上半期の良かったアルバムを紹介するよ【邦楽3選・洋楽3選】
皆さんごきげんよう。
今年もこの季節がやってきた。2022年の上半期、私が特に気に入ったアルバムを紹介する記事となっております。
今年は特に海外アーティストのリリースが活発で、近年稀に見る豊作の年だった事もありかなり選定に迷いました。さて一体何が選ばれたのか。
中村佳穂 / NIA
2021年は映画「竜とそばかすの姫」で主人公の声優を担当、millennium paradeとして紅白歌合戦への出場を果たすなど、その才能がポピュラー層にまで轟いた印象の中村佳穂。
ここ最近のオンラインライブなどを見ると、音楽が楽しすぎてナチュラルハイみたいになっている佳穂パイですが、約4年を費やした本気の作品はやはり凄かった。
2019年にリリースした配信シングル3作が軒並み素晴らしく、次のアルバムへの期待も高まっていたタイミングでコロナ禍に見舞われ、制作活動も一時中断せざるを得なかった。
そんな状況から約2年を経て感じた心境の変化や、疲弊した人々への讃美が随所に感じられる1枚となっている。
アグレッシブで博愛に満ちた序盤の流れから、内省的でシリアスな終盤へのグラデーションが非常に自然で、アルバム全体の流れも計算しつくされているのが分かる。
前作に引き続き自主レーベルからのリリースということもあり、時間や制約に縛られていない伸びやかな制作スタイルが存分に活かされた作品となっている。
リリース後にM-8「MIU」のミュージックビデオが公開されていて、初めて中村佳穂本人が登場する素晴らしいビデオなのですが、何故かまったく伸びてないので必ず見てください。ちなみに僕もこの記事を書くまでミュージックビデオ出てたの知りませんでした。宣伝大事。
春ねむり / 春花燎原
2016年から活動しているシンガーソングライター、春ねむりの2ndフルアルバム。
ポエトリーと歌メロを行き来する独特な歌唱法で徐々に知名度を上げ続けていた彼女。フルレングスとしては約4年ぶりとなる渾身の作品ですが、想像以上に喰らっちゃいました。
内容は全部で21曲入り、トータル1時間20分越えの超大作となっている。聖歌のようなオープニングからM-2「Déconstruction」への流れで一気に掴まれて、M-3「あなたを離さないで」の狂気と焦燥が爆発する瞬間は鳥肌モノ。
サウンドの面でも非常に精巧で、楽曲ごとにロック、パンク、ヒップホップ、ゴスペル、ハイパーポップなど様々なジャンルを縦横無尽に行き来する飽きさせない構成になっている。忘れてはならないのが、作詞だけでなくトラックも全曲セルフプロデュースであること。もうね、ヤバいんすよこの人。
今作の最重要ナンバーであるM-20「生きる」は、日本のポエトリーラッパーを代表する存在であった不可思議/wonderboyの「生きる」という楽曲をモチーフにして作られた楽曲であり、2011年に不慮の事故で他界した不可思議/wonderboyへの追悼も込められた楽曲と言える。跳ねの効いたビートと歌詞の対比が斬新で、一度聴いたら忘れられないパワーを持った楽曲だと思いました。間違いなく彼女の最高傑作であり、2022年のベストソングの筆頭になること間違いなしの大名曲。
陰鬱とした現代社会に強烈なカウンターパンチを喰らわす会心作。必聴です。
坂本慎太郎 / 物語のように
言わずと知れた孤高のシンガーソングライター、元ゆらゆら帝国のフロントマン坂本慎太郎。
6年ぶりとなる待望のニューアルバムは、予想を裏切り期待を裏切らない最高の作品でした。
今作はソロ転向後の過去作と比べて、比較的ポップで明るいナンバーが多く耳馴染みのよいアルバムだなという印象。
「この数年で世の中の閉塞感が更に強まっているのを感じていて、それを突き抜けるようなものをやりたい」と本人がインタビューで語っているように、鬱屈とした現代社会から一時的に逃れられる理想郷のような心地良さが確かにある。
小難しい高尚すぎる音楽が苦手な筆者は、一聴したのち「ポップで聴きやすい!最高!わーい!」と呑気に喜んでいたのだが、何度か繰り返し聴くうちに「あれ、、これもしかして今までで一番悲しいアルバムなんじゃ、、」と愕然とした。
これまでの作品で、現代に混在する矛盾や社会悪に対しての静かな警告のようなアイロニーを鳴らしてきた坂本慎太郎が、この閉塞しきった2020以降の現代社会でこの音を鳴らさなければいけなかったという意味。
それを理解した後、1曲目の「それは違法でした」を聴けばすべてが変わって聴こえてしまうのです。
Rex Orange County / WHO CARES?
ここから洋楽。
イギリスのシンガーソングライター、Rex Orange Countyの通算4枚目となるフルアルバム。
前作「Pony」が全米3位を記録、その才能が一気に広まり期待が高まる中リリースされた3年ぶりのフルアルバム。
話題作目白押しだった2022年の洋楽シーンの中で、一際ポップスとしての純度が高く筆者のツボをゴリゴリ刺激されっぱなしのアルバムでした。
カノン進行を用いて晴れやかにオープニングを飾るM-1「KEEP IT UP」に始まり、タイラー・ザ・クリエイターをゲストに迎えたM-2「OPEN A WINDOW」、心地良いビートで翳った心情を歌うM-8「THE SHADE」など、至極のポップソングが並んでいる。
個人的ハイライトは、穏やかな多幸感と切なさが同居したラブソングM-4「AMAZING」。随所に入るストリングスの音色が、煌びやかなのに押し付けがましくならない絶妙な音使い。こんなラブソング捧げられたら一瞬で落ちるわ。
穏やかで切ない究極のノスタルジーに浸れる珠玉の一枚。
FOALS / Life is Yours
イギリスのロックバンド、FOALSの通算7枚目となるフルアルバム。
2019年には「Everything Not Saved Will Be Lost」と題されたアルバムを二部作に分けてリリースするという壮大なプロジェクトを遂行。従来のダンスロックから派生したアート寄りな音楽性をどっぷりと見せつけた大傑作であった。
それから約3年、今作は「史上最もポップな1枚」と本人が語っているように、思わず踊りだしたくなるようなご機嫌なナンバーが並ぶ作品となっている。
特に前半の楽曲群は必殺級で、M-2「Wake Me Up」やM-4「2001」など、小難しい事は抜きにして本来の音楽が持つ快楽性を追求した骨太なダンスロックが並ぶ。
短いインタールードを挟んだ中盤~後半は少し緩急をつけながらも終始リズミカルな一本軸が通った楽曲構成となっている。終盤の肝となるM-10「The Sound」は少し懐かしいエッセンスを感じながら心地良いカッティングギターに酔いしれることのできる上質なファンクナンバー。
ファンクやダンスビートを基調とした音楽は近年色んな方面で流行って来てるなと感じるが、15年ぐらい前からそういう事やっててガッチガチな地盤を持っている中堅バンドの本気を見せられた感じがしました。また何年後かでいいので、もっとマスロックに接近した音楽性のアルバムを出して、世界にマスロックの波を再来させてほしいな。
Father John Misty / Chloë and the Next 20th Century
最後はアメリカのシンガーソングライター、J・ティルマンのソロ名義での活動であるFather John Mistyの通算5枚目のアルバム。
彼の作品としては通例通り名門レーベルSub Popからのリリースということで、クオリティにはお墨付きとも言える今作。
2017年にリリースされたアルバム「Pure Comedy」が大傑作だったこともあり、まあ期待を大きく下回る事はないだろうと思ってはいましたが、むしろ期待を上回る素晴らしい作品でした。
"Chloë(クロエ)"という一人の女性と、その周りを取り巻く歴史の循環が大きなテーマとして掲げられている今作は、がっつりコンセプトアルバムという程ではないけれど全曲通して一貫した空気感が漂う、程好い統一感に満ちた作品となっている。
70年前にタイムスリップしたかのようなオールドタイム・ジャズのような音色でオープニングを飾るM-1「Chloë」に始まり、風通しの良いアコースティックギターで軽やかに鳴らすM-2「Goodbye Mr. Blue」、短調と長調を巧みに使い分けながらストーリーテラーのような視点である男女の別れを歌うM-4「[Everything But] Her Love」など、序盤から豊潤な音遣いと巧みなソングライティングを凝らしたヘビーな一撃を連発。
後半の核となるM-8「Funny Girl」は全曲の中でも特に優れた出来で、シネマティックなオーケストレーションが目立つ今作を象徴する珠玉の1曲となっている。
ストリングス、ホーン、ピアノと、一貫してプリミティブな楽器のみで構成されている今作だが、ラストを飾るM-11「The Next 20th Century」の間奏で突如バリバリに歪んだディストーションギターでのソロが鳴り響く瞬間は鳥肌モノ。20世紀と21世紀の音楽が重なる瞬間を体現しているような圧巻のギターソロとなっている。
まさにベテランの意地といった渾身の一作。是非聴いてほしい。
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最後に、記事で紹介した作品を含む2022年上半期の個人的ベストトラックをまとめたプレイリストを作成しましたので貼っておきます。
興味ある方は是非聴いてみてください。
土居泰地の「2022上半期ベストトラック」をApple Musicで