諂諛

音楽好きによる音楽好きの為の雑記。

2023年下半期の良かったアルバムを紹介するよ 【邦楽6選・洋楽6選】

 

おはようございます。2023年もあっという間に終わりを迎えようとしています。

今年は自分の音楽活動に勤しんでいた事もあって新譜を追えていない時期もありましたが、最終的にはたくさんの名盤に出会えました。

今回も国内と国外6枚ずつ紹介していきます。チェケラー!

 

 

GRAPEVINE / Almost there

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1993年結成のベテランロックバンド、GRAPEVINEの通算17作目となるフルアルバム。

前作「新しい果実」から約2年半ぶりとなる今作は、前作で獲得した確固たる独自性を踏襲しながらも更にアップデートされた強烈な個性を放つ11曲を収録。

 

メンバー全員が曲を書いたり、バンドセッションによる曲作りを行ったりと流動的な作曲スタイルを続けてきた彼らだが、今作では田中和将(Vo./Gt.)と亀井亨(Dr.)の2人がヒロトマーシーのように半分ずつ曲を持ち寄って完成させている。田中の作るトリッキーな楽曲と亀井の作るお得意の美メロソングがバランスよく入っていて、これまでにないバラエティ豊かなアルバムとなった。

最初の先行シングルとして公開されたM-2「雀の子」は、ここ数年で作曲面でもメインを張るようになったボーカル田中によるカオスで意表を突くスリリングな展開の楽曲。

今作のアレンジは外部プロデューサーではなく、20年近く固定サポートを務める高野勲(Key.)が担当しており、亀井作曲のM-5「実はもう熟れ」等のシンセ主体の楽曲は特に聴き応えのあるアレンジとなっている。

 

結成三十年にして、この鮮度とクオリティを維持できるのは並の事ではないと思います。恐るべし。

 

Almost There

Almost There

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くるり / 感覚は道標

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こちらもベテランといえるオルタナティヴロックの金字塔バンド・くるりの新作。

リリース前から発表されていた通り、くるりの創設メンバーであり2002年に脱退した森信行(Dr.)を迎え制作されたアルバムであり、まさかの復帰にファンを驚かせた。

筆者も非常に期待しつつ、まあ岸田の事だから初期の音楽性に寄せた作品にはしないだろうと思っていて、概ねその予想は当たっていました。

先行シングルの「In Your Life」はUKインディーロック調のサウンドと切ないメロディラインの"くるり節"全開なロックナンバーだが、その一方でアルバム曲はかなり遊び心に満ちた楽曲が多い印象。

個人的なお気に入りはラストを飾るM-13「aleha」。発売前からライブで披露されていたバラードナンバーで、遠い未来に対する希望と恐怖を綴った歌詞とアコースティックなサウンドで心地良いエンディングを迎える。

オリジナルメンバー3人の絶妙な距離感だったり、照れ隠しのような悪ふざけと少しの本気が垣間見える秀逸な作品。

 

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秋山璃月 / サルライター

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2000年生まれの新人シンガーソングライター、秋山璃月のファーストフルアルバム。

10代限定のアマチュアコンテスト「未確認フェスティバル」で17才の時にグランプリを獲得し、その後バンド編成でのライブ活動やMV制作などの活動を経て、満を持して今作のリリースとなった。

 

彼の存在を知ったのは、11月に公開された今作のリード曲「リアリティとは?」のMVを見たことがきっかけでしたが、ファーストインパクトで完全に持っていかれました。彼は紛れもなく天才です。

作曲演奏ミックス作業をすべて1人で行う所謂"宅録"で作られた今作は、2000年以降のオルタナティヴロックに見られる性急な歌い回しや細かい譜割りに、フリッパーズ・ギターなどの渋谷系を思わせるキュートな音色をブレンドしたような全く新しい音楽性を確立させている。

2023年末の時点で3000回程の再生回数ではあるが、どこかで火が付けば大絶賛されるポテンシャルがあると思います。売れろ〜!

 

Sal.Lighter

Sal.Lighter

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TESTSET / 1STST

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ソロミュージシャンとしても活躍するLEO今井砂原良徳の2人が中心となって結成されたバンド、TESTSETのファーストアルバム。

2014年にYMO高橋幸宏らを中心に結成されたMETAFIVEが今年事実上の活動終了となってしまいショックだったが、程なくしてTESTSETの結成とアルバムが発表され、個人的にも嬉しかったです。

ダンサブルなニューウェーブロックM-2「Moneyman」はもちろん、New OrderCabaret Voltaireといったポストパンクを含む80年代ニューウェーブの影響を強く感じるM-7「Over Yourself」など、硬派できめ細かい電子音と生楽器のアンサンブルが気持ちいい。

ギターは相対性理論の永井聖一、ドラムはGREAT3の白根賢一という異色の組み合わせだが、一流ミュージシャンの集まりともあって互いに打ち消しあう事なく見事に調和し合っている。

今年惜しまれつつこの世を去った高橋幸宏の意思を受け継いだ素晴らしい作品でした。

 

1STST

1STST

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家主 / 石のような自由

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2013年に田中ヤコブを中心に結成されたロックバンド、家主の3枚目となるフルアルバム。

野良の音楽好きだけでなく数々のミュージシャンから大絶賛された前作「DOOM」から約二年ぶりとなる今作は、ベテランの風格すら漂う安定感と確立された家主サウンドが遺憾なく発揮されている。

田中ヤコブの書く感傷的で共感を誘うM-2「きかいにおまかせ」M-8「耐えることに慣れ過ぎている!」は今作もアルバムの核をきっちり担っている。

それだけでなく、リードギターの谷江俊岳によるハイファイな異色ナンバーM-3「庭と雨」や、ベースの田中悠平によるストレートなロックバラードM-7「オープンエンド」など、フロント三人それぞれが曲を書きリードボーカルを務めるスタイルも家主の良さとなっていて、今作はそれらの個性がより際立っていて面白かった。曲数のバランスもちょうど良く、つくづく全てにおいてセンスが良いバンドだなと思わされる。

現役オルタナロックの中でもトップクラスに好きなバンドなので、末永く続けて欲しい。ライブも行こう。

 

石のような自由

石のような自由

  • 家主
  • ロック
  • ¥2444

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Lamp / 一夜のペーソス

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2000年に結成された3人組音楽ユニット、Lampの5年ぶり9作目となるアルバム。

大掛かりな宣伝やライブ活動をあまりやらずにマイペースな活動を続けていた彼らだが、海外から火が付いた日本のシティポップブームの影響により多くのリスナーに発見され、ここ数年で一気に知名度を上げた。

そんな予想外の現象を経て満を持してリリースされた今作は、全20曲収録時間70分超えの大作となった。

大きく前半と後半の2部構成となっており、前半はスタンダードなLampの新曲が中心で後半は組曲のような流れを意識した構成となっている。

一見するとサラッと聴き流してしまえる良質なポップソングだが、1曲1曲の音の配置や音色のこだわりは凄まじく、特に後半ブロックのサウンドスケープは圧巻。

ライブ活動を殆どしない彼らにとってレコーディングが活動のメインだとインタビューでも度々語っているが、今作はその気概を痛いほど感じられる作品でした。

 

Dusk to Dawn

Dusk to Dawn

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Blur / The Ballad Of Darren

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ブリッドポップを代表するイギリスの大御所バンド、Blurの約8年ぶりの新作。

2015年に復帰作となる「The Magic Whip」をリリースするも、バンドとしての活動は近年殆ど無かったので突然のリリースにファンは大歓喜。筆者もその一人です。

今年の2月にはデーモン・アルバーン(Vo./Gt.)のサイドプロジェクトでもあるGorillazの新譜もリリースされたが、その反動からなのかGorillazのヒップホップ的アプローチとは掛け離れたシンプルなバンドサウンドが聴けるアルバムとなっている。

先行シングルとして配信されたM-7「The Narcissist」は、Blurにありそうでなかったエモーショナルで切ないメロディラインの名曲。個人的にはデラックス盤に収録されている新曲「The Rabbi」のようなポップな曲も非常に好きでした。

前作のような実験的な瞬間も所々には見られるが基本的にはシンプルにメロディと歌詞をじっくり聴かせるタイプの作品。地味と言えば地味だが、個人的にはこういうの待ってた!って感じで好きでした。デーモンは生粋のメロディーメーカーだと思っているので。

 

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Sampha / Lahai

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イギリスロンドン出身のシンガーソングライター、Samphaの7年ぶりの新作。

上半期でも少し触れましたが、今年は7,8年ぶり級の待望の新作が本当に多かった年でした。そんな中でもかなり度肝を抜かれたのがコレ。

エレクトロソウルとも呼ぶべき独自のサウンドメイキングでデビューアルバムから相当高い評価を受けた彼だったが、そんな前作とも全く異なるフェーズに居るような衝撃的な内容。

M-1「Stereo Color Sound」の、鍵盤とドラムが爆速で絡み合うイントロから既にハイライト級のインパクトを放つ。続くM-2「Spirit 2.0」にも見られるジャズの要素とR&B歌唱が見事に調和し、既存の型にハマらない全く新しい音楽を提示している。

それでいて歌メロの旨味も損なわれておらず耳馴染みも良く非常に完成度が高いアルバムでした。個人的年間ベストを選ぶとすればこのアルバムかな。

 

Lahai

Lahai

  • サンファ
  • エレクトロニック
  • ¥1528

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Yussef Dayes / Black Classical Music

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UKジャズムーブメントの先駆者とも言われるドラマー/マルチ・インストゥルメンタリスト、ユセフ・デイズのソロ名義では初となるアルバム。

2020年のトム・ミッシュとのコラボ・アルバム『What Kinda Music』が大きな話題となり、後のEzra Collective等のUKジャズムーブメントをより活発にした立役者でもある彼の新作は、全19曲の大作。

盟友トム・ミッシュや、世界各国のジャズプレイヤー、名だたるソウルシンガーに家族までフィーチャリングした豪華すぎる内容で、通して聴くと贅沢なワンマンライブを見ているような満足感が得られる。

一口にジャズといえども、根底にあるのはダンスだったりキャッチーさに振り切った作風と言えるので、ジャズに抵抗のある方も気軽に楽しめると思います。

海外版THE FIRST TAKEとも言えるYouTubeコンテンツ"A COLORS SHOW"にて披露されたM-10「Chasing The Drums」のパフォーマンスも圧巻。

 

Black Classical Music

Black Classical Music

  • Yussef Dayes
  • ジャズ
  • ¥1833

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Wilco / Cousin

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GRAPEVINEのメンバーも敬愛するアメリカのロックバンドWilcoの13作目となるアルバム。

2枚組の超大作となった「The Cruel Country」からわずか1年でリリースされた本作は、自身もミュージシャンとしても活躍するケイト・ル・ボンをプロデューサーに迎え制作された。

前作がシンプルに良い曲を詰め込んだ作品集のようなアルバムだったのに対し、全10曲のコンパクトな構成の中で緩急のついたアルバムらしい仕上がりで個人的には好みでした。

M-4「Evicted」のようなWilcoらしい爽やかなカントリーロックはもちろん、後半のM-8「Pittsburgh」やラストのM-10「Meant to be」など荘厳で強靭なバンドサウンドも今までになくシリアスで手の込んだアレンジとなっている。

2024年には来日公演も決定しているWilco。これらの楽曲がライブでどう化けるか楽しみだ。

 

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Blake Mills / Jelly Road

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プロデューサーとしても数多くの名盤を手掛けるシンガーソングライター、Blake Millsのソロ5作目となるアルバム。

前作「Mutable Set」の実験的な音響と生楽器のアンサンブルが非常に素晴らしく、今作はその延長にありつつも目立った変化球は無く、よりソングライティングに重きを置いた作風となっている。

徐々に音数を増していくバンドサウンドに牧歌的な歌唱が乗るM-4「Skeleton is Walking」など、シンプルな中により巧妙に実験的要素を盛り込んだ職人技を堪能できる。

じっくり腰を据える必要もなく、穏やかに身を任せるように楽しめる1枚でした。年を取ったせいかこういうアルバムを聴きたくなる時が増えてきたなぁ。

 

Jelly Road

Jelly Road

  • Blake Mills
  • シンガーソングライター
  • ¥1935

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Oscar Lang / Look Now

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The 1975らを輩出する名門レーベル"DIRTY HIT"に所属するシンガーソングライター、Oscar Langの3作目となるアルバム。

ここ数年の筆者の年間ベスト記事で毎回DIRTY HITのアーティストを挙げている気もするが、もうしょうがないよね。好きなんだもん。

 

約2年ぶりの新作となる今作は、プロデューサーにコーラルやブロッサムズを手掛けたリッチ・ターヴェイを迎え、彼の持ち味であるフォーキーでサイケデリックな部分を活かした上質なポップスが収められている。
ブリッドポップの大名曲であるヴァーヴのBittersweet Symphonyを彷彿とさせるM-1「A Song About Me」や、6度の和音が鳴り続ける緊張感たっぷりのバラードM-9「Oh God」など、ギターだけでなくピアノも駆使し巧みなソングライティングと王道な声を持つボーカルが合わさる。

彼のルーツであるOasisプログレ音楽の影響をうまくオリジナルに落とし込んでいて、良い意味で懐かしさも感じる安心感のある作品でした。

 

Look Now

Look Now

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最後に今年もApple Musicで、個人的年間ベストをまとめたプレイリストを作りました。

上半期も含めて国内と国外それぞれ50曲ずつ合計100曲の大ボリュームになっているので、通勤時間などにシャッフルで聴くことをお勧めします。

 

それでは、来年も皆様が良い音楽に巡り会える事を願ってます。良いお年を!

 

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土居泰地の2023 年間ベストトラック - Apple Music

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2023年上半期の良かったアルバムを紹介するよ 【邦楽6選・洋楽6選】

 

皆様ごきげんよう

今年で5回目となるベストアルバム記事ということで、今年から紹介するアルバム数を2倍に増やしてみました。

そのおかげで6月末までに書き終わらないどころか1ヶ月もオーバーしてしまいました。てへぺろ

 

皆様のベストアルバムが一つでも選ばれていることを願って、早速紹介していきたいと思います。

 

 

スピッツ / ひみつスタジオ

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結成36年、通算17作目となる日本の重鎮ロックバンド、スピッツの待望の新作。

鬱屈としたコロナ禍の最中に製作された本作は、ロックバンドの初期衝動と瑞々しさをそのまま具現化したような、スピッツ史上最もポジティブに振り切った作品なのではないだろうか。

大ヒットを記録したM-4「美しい鰭」を中心に、ポップス然とした親しみやすいメロディに比重を置きつつも、不意に変拍子を突っ込んだりパンクサウンドを取り入れたりと、しっかり"ロック"しているのも素晴らしい。

コロナ禍の反動で明るい作品を世に送り出したアーティストは他にも居たが、お茶の間から机上の音楽ヲタクまで幅広く支持されるスピッツが私たちに寄り添ってくれる事が本当に嬉しかった。

36年もの間、絶やすことなく創作への探求を続けてきたスピッツからの最高のプレゼントでした。天晴。

 

 

APOGEE / Sea Gazer

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2001年結成のニューウェーブロックバンド、APOGEEの通算6作目。

2014年より自主レーベルからのリリースとなり、スローペースながらもハイクオリティな作品を発表し続けている彼ら。約5年ぶりとなる今作も期待を裏切らない大傑作でした。

前作「Higher Deeper」ではエレクトロ路線に深く突っ込んでいたが、今作は打って変わって生のバンドサウンドが主導のロックアルバムとなっている。

中でもリード曲となるM-1「遠雷」は、印象的なギターリフから始まりハイトーンボイスとプログレ的展開が巧妙に絡み合う、彼らのキャリアを通しても最高傑作レベルの名曲だと思います。

メインストリームからは外れたかもしれないが、こうして作品を作り続ける事を生業としている姿が非常に美しく、真っ直ぐ憧れちゃう。そんな人たちです。

 

 

People in the Box / Camera Obscura

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2003年に福岡県で結成されたスリーピースバンド、People in the Boxの4年ぶりとなる新作。

変拍子や難解なフレーズを駆使するテクニカルな音楽性で作品を出す度に音楽ヲタク界隈を賑わせてきた彼らですが、今作は一際完成度の高い作品だったのではと思います。

シューゲイザーとハードロックを悪魔合体させたようなM-1「DPPLGNGR」や、不穏なイントロから明るいサビへのコントラストが印象的なリードトラックM-2「螺旋をほどく話」など、ここ数作の中では比較的キャッチーで色彩豊かなナンバーが並ぶ。

しかしながら、音のテクスチャーや歌詞のレトリックは気が遠くなるほど緻密。聴く度に新しい発見が絶えないアルバム。

結成20年を迎え、積まれた経験とアイデアを惜しみなく継ぎ込んだ職人技。流石です。

 

 

 

女王蜂 / 十二次元

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2009年に神戸で結成されたロックバンド、女王蜂の8作目となるアルバム。

奇抜なルックスとハイトーンボイスを駆使した楽曲で注目を集め、徐々に知名度を上げ2019年にリリースした「火炎」で大ブレイクを果たした。

数々のタイアップシングルを含んだ今作は、幅広く克つ攻撃的でアッパーな楽曲が多数収められている。

取り立て屋をテーマにしたM-1「油」は、久し振りに”和”のテイストを前面に押し出したイカついダンスロックで、売れ線を突っ走るバンドとは思えないダークユーモアに溢れた面白い1曲となっている。

ここまで自由度の高い作品をしっかりマスに届けられるカリスマ性とソングライティング力は稀有な存在だと思います。

 

 

パソコン音楽クラブ / FINE LINE

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2015年に結成された二人組DTMユニット、パソコン音楽クラブの4作目。

ビンテージのハードモジュレーターなどのアナログ機材を多数所有し、懐かしさを感じるテクノサウンドが持ち味であるパ音の待望の新作。

これまで一貫したテーマを設けたコンセプチュアルな作品を多くリリースして来たが、今作は敢えてアッパーなクラブ直結ナンバーを多数収録した楽しい作品となった。

先行シングルとしてリリースされていたM-5「KICK&GO feat.林青空」や、パ音流ジャズコア風テクノM-6「Dog Fight」などユーモアに溢れた楽曲も聴きどころだが、ラストを飾るM-13「Day After Day feat.Mei Takahashi (LAUSBUB)」は、壮大なテーマと渾身の泣きメロが炸裂する今作最大のハイライト。こんな曲作れたら気持ちいいやろなぁ。

 

 

cero / e o

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2004年結成の東京発バンドceroの5th。 約5年ぶりのアルバムとなる今作は、2020年から配信されていた4曲の先行シングルを含む(全曲リアレンジ)全11曲。

初期のヒップホップ〜ネオソウル的アプローチはすっかり色褪せ、ジャズやゲーム音楽からの影響を感じられる緻密で予測不能なコードワークが鳴り続ける異色作。一歩間違えると崩壊しかねない奇跡的なバランス感覚で構築された楽曲がズラリと並んでいて圧倒される完成度。ロックバンドでここまでの次元に達した作品は過去に無いのでは。

M-5「Fuha」日比谷野外音楽堂でのライブ映像が公式にアップされており、これがまた非常に素晴らしいです。楽曲が持つ神秘性とライブならではの肉体性がガッチリ融合し、見たことのないサウンドスケープが広がっています。

今後のオルタナティブシーンにも大きな影響を与えうる金字塔と言える作品。こりゃすげぇ。

 

 

Daughter / Stereo Mind Game

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イギリスのインディーロック界を代表するバンド、Daughterの約7年ぶりとなる待望の新作。

前作に引き続き名門レーベル4ADからのリリースとなる今作は、ロンドンの名アンサンブル、12 Emsembleと聖歌隊が参加しサウンド面でも非常に質の高い作品となっている。

エレナ・トンラの繊細で儚い歌声は7年経った今も健在で、リードトラックのM-2「Be On Your Way」ではRadioheadのトムヨークを想起させる揺らぎが心地よく、M-6「Swim Back」では強いビート感をより引き立たせる役割を果たしている。

似たような後発バンドは数あれど、間違いなく替えの効かない存在であることを証明してくれた会心作。末永く続いてほしいバンドの一つ。

 

 

Unknown Mortal Orchestra / V

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ニュージーランドを代表するサイケロックバンド、Unknown Mortal Orchestraの5th。 こちらも約5年ぶりのアルバムということで、今年は待ちに待った新作が豊作の年でした。

楽曲自体は非常に緻密で高水準ながらも、どこかB級感を漂わせる音作りとMVが心地よく、今作もその絶妙なバランス感覚は健在。

前作に比べるとよりサイケ感を前面に押し出した印象はあるが、初期のアルバムのような取っ付き辛さもない丁度いい塩梅のアルバムなのでは。入門編としても至適。

2021年にリリースされた先行シングルM-6「That Life」は、可愛らしくもどこか奇妙な操り人形が踊り続けるMVも含めて特に大好きな1曲で、イントロの3連符を駆使したギターリフも大発明だと思います。

 

 

 

Paramore / This Is Why

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アメリカのテネシー州で生まれたロックバンドParamoreの通算6作目となるアルバム。

デビュー時はエモパンクバンドとして10代を中心に人気を博したが、作品を重ねるごとに様々なジャンルをオーバーラップしていき多方面からの評価を獲得している。

そんな彼らの待望の新作は、まさかのオルタナ全開で攻めに全振りした内容となっており、初期のパブリックイメージを悉く覆す作品となっている。ONE OK ROCKが急にGRAPEVINEみたいな音楽性をやり始めたぐらいの意外性。

それなのにParamore本来のキャッチーさと人懐っこさは全く削がれておらず、旧知のファンも置いてけぼりにしないアルバムとなっていて感心。

タイトルトラックM-2「This Is Why」オルタナ好きなら間違いなくハマる必聴ナンバー。どうやったらこんなサビ思い付くねん。

 

 

 

Sigur Rós / ATTA

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北欧はアイスランドレイキャビクにて結成されたポストロックバンド、Sigur Rós(シガーロス)の10年ぶりとなる新作。

バンドの黎明期を支えたマルチインストゥルメンタリスト、キャータン・スヴェインソンの脱退、そして復帰を経て間もなく完成された本作は、もはやワールドクラスとなった彼らの復活を祝福するような、壮大でディライトに満ちた作品。

M-2~M-4にかけて徐々に音数が増えていく構成は鳥肌モノで、ロックバンドという制約をまるで感じさせない音像が成り立っている。後半のハイライトM-6「Andrá」は、初期のシガーロスを思わせる懐かしい響きに包まれる感動の1曲。

社会への強烈なメッセージと音への執着がコンパイルされた名作。夏の終わりにいかがでしょうか。

 

 

Panchiko / Failed at Math(s)

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謎多きインディーロックの新星、パチンコではなく"パンチコ"の20年以上ぶり(?)となる新作。

2000年頃に知り合いのみに配布された自主制作盤「"D>E>A>T>H>M>E>T>A>L」が、2016年頃にネット掲示板にて発掘され話題に。その噂が本人まで届きバンド再結成まで漕ぎ着けた、という嘘みたいなストーリーを経たバンドである。

そんな彼らの新作は、前述の自主制作盤のテイストとは大分色味の異なるゴシックなポストロック風の作品で、toedownyといった日本のバンドが好きな人に刺さるのでは。

何より彼らのサクセスストーリー、巷では彼らがマーケティングの為に仕込んだフィクションなのではとも囁かれている。そんな所も含めて非常に面白いバンドで個人的に大注目しています。信じるか信じないかはアナタ次第。

 

 

The Japanese House / In The End, It Always Does

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イギリスの名門レーベルDirty Hit所属のシンガーソングライター、The Japanese Houseの2作目となるフルアルバム。

前作「Good at Falling」の発表から約4年の間で、彼女の身に起こった様々な出来事と、それに対峙する心象を綴った全12編からなる。

レーベルメイトであるThe 1975のMatthew Healyを迎えてレコーディングされたM-9「Sunshine Baby」アコースティックギター主体の切ない失恋ソングM-5「Sad to Breathe」など、煌びやかで繊細なアンサンブルで奏でられる耳心地の良い楽曲が詰まっている。

ハイライトとして挙げたいのは先行シングルとしてリリースされていたM-6「Boyhood」。取り払うことのできない先天的なマイノリティについて綴った赤裸々な歌詞と、エレクトロニカを想起させる細やかな電子音の響きが印象的な1曲。宇多田ヒカルなど日本のシンガーが好きな方にもお勧めしたい。

 

 

 

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今回もブログで紹介しきれなかった2023年上半期の個人的ベストトラックをプレイリストにまとめております。

今年も豊作の予感がします。では下半期でまた会いましょう。

 

 

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土居泰地の「2023年上半期ベストトラック」をApple Musicで

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2022年下半期の良かったアルバムを紹介するよ【邦楽3選・洋楽3選】

 

こんスピ!

 

 

今年はからあげクンの値上げを筆頭に様々なニュースが世間を騒がせました。

私は相変わらず音楽を聴いて、音楽を作って、音楽を演奏するだけのマシンミュータントと化していました。

 

上半期に続いて、2022年7月~12月リリースの個人的に特に良かったアルバムを厳選して紹介していきます。

上半期編を見ていない方は、そちらも是非ご覧ください。

 

 

 

マハラージャン / 正気じゃいられない

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2019年に謎の覆面アーティストとして現れ、クセになる楽曲が話題となり昨年メジャーデビュー。その後THE FIRST TAKEにも出演し注目を集め、満を持してリリースされたマハラージャンの1stフルアルバム。

ファンクをベースとした上質なサウンドに、クスッと笑える奇抜な歌詞が乗る独自のスタイルが特徴。昨年のデビューEPの表題曲「セーラ☆ムン太郎」は、僕の2021年ベストトラックにも選んだほど好きなアーティストです。

 

先行配信されたシングル3曲に加えて、オープニングを飾るカオスなファンクロック「正気じゃいられない」、タイトルからは想像できないクールなナンバー「鼻の奥に米がいる状態」、より幅広い世代にリーチするように作られたポップチューン「その気にさせないで」と、完成度の高い楽曲がこれでもかと連打していくM-1~M-3の流れは圧巻。超楽しい。

個人的ハイライトはM-6「エルトン万次郎」。"おまじない それはイマジン"とあるように、真っ先に連想されるあの単語を敢えて口にしない斬新な切り口の歌詞が印象的な一曲。こういう細かいギミック一つ取っても、彼の豊かなインテリジェンスが伺える。

 

上質なサウンドであることは間違いないが、決して量産型ではなく新機軸を生み出そうとする姿勢が表れていて、令和の多様な音楽シーンをより豊かにしてくれる素晴らしい作品でした。ブラボー。

 

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SuiseiNoboAz / GHOST IN THE MACHINE DRUM

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2007年結成、幾度かのメンバーチェンジを経て現在はフォーピースでの活動をしている孤高のオルタナティブバンドSuiseiNoboAz(スイセイノボアズ)。

 

前作から約2年ぶり、通算6作目となるアルバム「GHOST IN THE MACHINE DRUM」は、彼らの創作意欲が爆発した大傑作でした。

イギリスのバンドThe Policeのアルバムをもじって付けられたと思われるタイトルからも想像できるように、無機質で冷たい張り詰めた空気が通底して漂っている。

 

彼らの特徴でもあるポエトリーとラップの中間のような独特のリズムで詠われるリリックは今作も健在だが、前作「3020」にあったエモーショナルな熱は影を潜め、それこそマシンのように淡々と刻むリズムと語り口で進行していく。

しかしながら、先行シングルにもなったM-2「THE RIDER」とM-7「群青」のような穏やかなメロディラインが光る曲も良いアクセントとなっており、全8曲37分と短尺でサクッと聴けるのも魅力。

 

タイトルトラックのM-2「GHOST IN THE MACHINE DRUM」は、一見シンプルに聴こえるが実はかなり複雑に構築していて、コード進行も特殊な動きばかり。既出のオルタナティブロックの楽曲を漁っても似た楽曲が見つからない、唯一無二の楽曲となっている。

個人的なお気に入りはラストの「YOMI」という楽曲で、打ち込みのシンセ音と加工された声のかなり異質な曲なんですが、タイトルの通りこの世ではない別の世界で鳴っているような、不思議と耳に残る楽曲です。

 

こういう”好き嫌いは置いといて質は間違いなく高い楽曲”を量産できるバンドがまだ日本で活動しているという事実、プライスレス。

 

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Bialystocks / Quicksand

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甫木元空(Vo, G)と菊池剛(Key)からなる2人組のバンド。映画監督でもある甫木元の初監督作品「はるねこ」の生演奏上映をきっかけに結成された。

2021年に1stアルバム「ビアリストックス」をリリースした後、Official髭男dismらが所属するIRORI recordsよりメジャーデビュー。今作がメジャー1作目のアルバムとなる。

 

僕は今作で彼らを知ったのですが、正直デビューしたばかりとは思えない安定したソングライティングと演奏力のグループが出てきたなという印象。

コンポーザーを務める菊池さんは海外でジャズを学んだ経歴があり、ポップでありながら音楽的な基礎値の高さが楽曲に顕著に表れている。

ボーカルを務める甫木元さんの柔らかいハイトーンボイスも相まって、オルタナティブだけど穏やかな温かみのあるサウンドに纏まっている。

 

ポップスを意識して作られたというリード曲M-6「Upon You」は、今作の中でも一際メロディが立っていて多幸感に溢れる文句なしの名曲。歌詞の言葉選びが独特で、心地良いサウンドに良いアクセントをもたらしている。

個人的にもう一曲推すならばオープニングを飾るM-1「朝靄」。ピアノとボーカルのみで淡々と同じリズムのメロディを繰り返すAメロが印象的な楽曲。映画のサントラの為に結成されたグループなだけあって、こういう風景描写に特化した楽曲はかなりクオリティが高いと思います。ジブリみがある曲。

 

ちなみにボーカルの甫木元さんは現在、高知県四万十町に移住しているとのことで、実は私の生まれ故郷なんです。ありがたいですねぇ~。

 

Quicksand

Quicksand

  • Bialystocks
  • J-Pop
  • ¥2241

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The 1975 / Being Funny In a Foreign Language

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ここから洋楽。

まずは2022年最重要と言っても過言ではない話題作、The 1975の新譜。

 

The 1975はイギリスで結成されたロックバンド。80年代のUKロックを下地に、エレクトロやダンス、アンビエントなど多様なジャンルを融合させ現代的に昇華させた完成度の高いポップスで人気を博している。

ボーカルのマシュー・ヒーリーは、女優と俳優の息子という超サラブレッド坊やでもあり、ルックスや才能にも恵まれたカリスマ性の高いボーカリストだ。

そんな生まれ持った資質に恵まれた人間よりも、俺は地の底から這い上がった人間の作る曲に愛情を費やしたいんや!と意固地になって、実は最近までしっかり通ってこなかったバンドなんですが、今作は紛れもなく傑作です。悔しい。

 

前作「Notes on a Conditional Form」は結構シリアスな楽曲が多く、曲数も全21曲総収録時間1時間20分近くという超大作だったのもあり、取っ付きづらさも拭えない作品であった。

しかし今作は全11曲約41分と簡潔な内容で、前作に見られたエレクトロ要素も影を潜め生のバンドサウンドによるアンサンブルに回帰したスタンダードな良曲が揃った作品だった。

ジャケットだけ見ると暗い内容なのかと思うが全然そんなことは無いです。

 

LCD Soundsystemの名曲を彷彿とさせるイントロから始まるオープニング「The 1975」から、ファンク調の軽やかなサウンドで踊らせるM-2「Happiness」、ミドルテンポで心地よいドリーミーなM-6「I'm in Love With You」The Shinsなどの2000年代インディーロック的なアプローチのM-7「Wintering」など、まさに捨て曲無しと言える良質なポップスばかりで、洋楽に取っ付きづらさを感じている方への入門にもうってつけな作品と言える。

後半のハイライトM-9「About You」は、女性ボーカルを迎え壮大なサウンドスケープと忘れられない恋人への思いを描く傑作。これだけでもこのアルバムへの評価を高くせざるを得ないレベルの名曲です。

 

作品を出すたびに期待値が上がりまくっているが、そのハードルを軽々と飛び越えたハイクオリティな作品でした。そら売れるわな!

 

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DOMi & JD BECK / NOT TiGHT

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2000年生まれのキーボーディストDOMiと、2003年生まれのドラマーJD BECKによるジャズユニットのファーストフルアルバム。

 

音楽業界に定期的に現れる、若くして圧倒的な才能と経験値を持ったスーパープレイヤー枠と言えるだろうが、彼女たちのスキルと音楽センスは別格です。

ドラムのJD BECKは12歳にしてプロデューサーとしての仕事を始めるなど桁違いのキャリアを持っており、良い意味で微塵も若さを感じない円熟味すら感じるアルバムとなっている。

 

近年ThundercatやLouis Coleを中心に国外で盛り上がりを見せるデジタル・ジャズ的なアプローチもありながら、基本的にはキーボードとドラムの2ピース編成の音だけで楽曲を構築している。

曲によってはかなり迅速なドラミングと手数の多いリフでジャズコア的な楽曲もあり耳が楽しい。

フューチャリングで参加しているアーティストも、Thundercat、マック・デマルコ、アンダーソン・パークなど名実共に優れた豪華な面々となっている。

中でもThundercatが参加した表題曲M-5「NOT TiGHT」はハイスピードなジャズコア風のサウンドで、耽美な狂気を生み出している。

 

弱冠20歳、まだデビューしたばかりとは思えない貫禄と革新性を帯びた作品です。

僕が彼女たちに勝てることといえば、寝起きの口の臭さぐらいしか無いです。大人なめんなよ。

 

NOT TiGHT

NOT TiGHT

  • ドミ&JD・ベック
  • ジャズ
  • ¥1935

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Drugdealer / Hiding in Plain Sight

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ロサンゼルスのサイケデリック・シーンで活動するMichael Collinsのソロプロジェクト、Drugdealerの3作目となるアルバム。

70年代のサイケロックを想起させるサウンドと現代的なアプローチを掛け合わせ独自の音楽を生み出す彼の待望の新作は、期待を超える最高の作品でした。

 

前作「Raw Honey」は、パッキパキに乾いたギターとドラムで淡々と刻む陶酔感が漂っていたが、今作は音のレンジが格段に広がった事で、よりメロディアスでグルーヴィーな音像にシフトしており、心地良く体を揺らす事ができる作品となっている。

心地良いエレピの音と重厚なコーラスを重ね華やかにオープニングを飾るM-1「Madison」、西海岸の香りを感じる軽やかなM-2「Baby」、全編通して女性ボーカルのロマンチックなM-4「Pictures of You」など、これぞ本場のグルーヴと言わんばかりの上質なトラックとボーカルの応酬にドーパミンがドバドバエビオス

中でも今作のリードトラックとなるM-3「Someone to Love」は、Drugdealerのキャリアを通しても最高傑作と言える名曲。

決して派手な音作りではないにも関わらず必要な音はすべて揃っていて、そこに乗るメロディが抜群に心地良い。マイケル・コリンズ本人がボーカルを務める楽曲は意外と少ないが個人的にはもっと歌ってほしいと感じた。

 

往年のサイケロックやファンクの名盤にも引けを取らない名作。必聴です。

 

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最後に、2022年の個人的ベストトラックをまとめたプレイリストを、Apple Musicで共有できるように貼っておきます。

国内50曲+国外50曲の計100曲という大ボリュームになっているので、どうか気軽に無理なく全曲聴いてください。

 

それではよいお年を。

 

 

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土居泰地の「2022 年間ベストトラック」をApple Musicで

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とにかく捨て曲の無い名盤が聴きたい!!!!【プレイリストあり】

 

捨て曲の無い名盤が聴きたい!!!!

 

皆さんもそう思った夜を一度や二度経験したことがあるでしょう。

 

 

音楽好きがこぞって絶賛する名盤に興味を持って聴いてみたはいいが、理解しようとしてもよく分からない…

大好きなアーティストの新譜を楽しみに聴いたが、期待外れだった…

 

そんなあなたも、もう悩む必要なんてありません。

アルバム全体の流れが~とか、芸術的観点が~とか、今夜はそんな事気にせず、ただ良い曲だけを集めた”捨て曲”がない名盤を紹介したいと思います。

 

ただ一人でも、悩める音楽好きの救いになりますように。アーメン。

 

 

1. スピッツ / さざなみCD (2007)

 

まずご紹介するのは、日本が誇る天才名曲製造機・スピッツの通算12作目のアルバム。

結成から20年という節目の年にリリースされた本作は、「魔法のコトバ」「ルキンフォー」等のヒット曲も収録された充実の内容。

 

ポップス性の強いスピッツの作品において”捨て曲が無い”事は結構重要なパラメーターになっていると思うのですが、このアルバムは正に捨て曲無しの大名盤。もはや狂気。

最大のヒット作となった6作目「ハチミツ」(1995)も、全曲バラエティ豊かな粒揃いの名盤ですが、今作は更に”メロディ”にフォーカスを絞った印象。奇を衒ったアプローチや変化球を極限まで削り、余すことなく極上の”美メロ”を1時間弱ぶん投げてきます。

 

アルバム曲の中で個人的に一押しなのがM-2「桃」。あまり言って来なかったけれどこの曲は私の人生の中でもトップクラスに衝撃を受けた曲の一つで、イントロのリフから歌メロ、裏で鳴っている楽器までもがキャッチーでみずみずしいミドルナンバー。

Aメロからサビまでの助走が少なめで、胸焼けしがちなザ・J-POP展開にも偏らない絶妙な構成。この引き算がソングライター・草野マサムネの大きな魅力の一つかもしれない。

 

ちなみにスピッツはこのアルバムから3年後、”とげまる”というベストみたいなアルバムをもう1枚リリースしています。マジで頭おかしいです。

 

 

Sazanami Cd

Sazanami Cd

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2. キリンジ / 3 (2000)

 

兄弟ユニットとしてデビューし現在は兄・堀込高樹のソロユニットとして活動中のキリンジ

本作は彼らの代表曲"エイリアンズ"を含むキャリア3枚目のアルバム。

 

2000年以降の邦楽の名盤として挙げられることも多い作品なのでジャケを見たことがある方も多いのでは。

ここ数年で何故かエイリアンズが色々なメディアで名曲として取り上げられたりした事もあって、何となく「エイリアンズが入ってるアルバム」みたいな認識になってきている気もするので今回紹介させていただきました。

 

いわゆる”兄弟キリンジ”時代の方向付けとなった作品で、シティポップやAOR、ジャズ等の影響下にある上質なポップスという位置付けを確立した金字塔的な作品。

全13曲トータル1時間10分という大ボリュームの内容で、先述のスピッツ"さざなみCD"が肩の力を入れず爽快な気持ちで聴けるアルバムなのに対して、こちらはじっくりと腰を据えて鑑賞したいアルバム。

 

代表曲の「エイリアンズ」はもちろん、シングルカットされた「アルカディア」「君の胸に抱かれたい」に加え、スリリングな「車と女」、後半ブロックで一際軽やかなポップソング「あの世で罰を受けるほど」等、もはや胃もたれ覚悟の名曲ラッシュが続く。

大ラスを飾るバラード「千年紀末に降る雪は」を聴き終えた後の余韻は正に映画さながら。ちょっとだけ老けます。

 

流石に20年以上経った今も語り継がれるだけあって、どこを切り取っても旨味のある大傑作です。

 

3

3

  • KIRINJI
  • J-Pop
  • ¥2139

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3. 川本真琴 / 川本真琴 (1997)


1996年に彗星の如く現れたシンガーソングライター・川本真琴のメジャー1stアルバム。

TVアニメ「るろうに剣心」のオープニング曲「1/2」がスマッシュヒット、その後リリースされた本作はミリオンヒットを記録している。

 

同時期にデビューしミリオンヒットとなった椎名林檎の「無罪モラトリアム」は今でも知らない人はいないぐらい聴かれている名盤ですが、当時は負けないぐらいの知名度とカリスマ性を誇っていた川本真琴。最近サブスク解禁された事もあり紹介しました。

 

川本真琴の特徴といえば、終始16分で刻み続けるアコギのカッティングと矢継ぎ早に繰り出されるシニカルな歌詞。本作はその革新的なサウンドが遺憾なく発揮されており、彼女の才能にただただ圧倒される仕上がりとなっている。

本作で度々登場するこのバキバキのカッティングギター、実はメジャーデビューが決まった段階でギターを弾いたことが無く、ほぼレーベルの意向で練習して弾けるようになったらしい。ほな天才やないかい。

 

しかし、そんなメジャー特有の制約や無理なディレクションに疲弊してしまった彼女は、その後アルバムを1枚だけリリースしたのち約10年活動休止状態になる。

現在はインディーズレーベルを自ら立ち上げマイペースな活動を行っているが、やっぱりこのメジャー1stが一番ギラついていて完成度も高く、一瞬の輝きと言ってしまえるかもしれないがそれだけ伝説的な名盤だと思います。

 

系譜としてはandymoriの「ファンファーレと熱狂」辺りの作品と通ずる部分もある気がするので、邦楽ロック耳の方にもお勧めしたい作品です。言わずもがな全曲良し。

 

 

川本真琴

川本真琴

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4. the chef cooks me / 回転体 (2013)


有名な作品が続いたのでマニアックな作品をご紹介。

 

2003年結成。インディーでの活動後2008年に一瞬だけメジャーデビュー。

紆余曲折を経て2013年、アジカン後藤主宰のレーベル「only In dreams」よりリリースされた本作は、サウンドプロデュースにもゴッチが全面的に介入し様々な外部アーティストを迎え製作された。

 

ジャケだけ見ると清閑な作風かと思いきや、中身は意外と賑やかで多幸感に溢れた楽曲が多く、とっつき辛さは皆無。

星野源トクマルシューゴが好きな人には間違いなくぶっ刺さる、ポジティブなエネルギーとアコースティック主体の上質なサウンドが両立したグッドミュージックが詰まっている。

 

プログレ的展開で徐々に熱を上げていき後半の爆発が気持ち良すぎるM-1「流転する世界」に始まり、大瀧詠一の名曲をオマージュした心躍る「ケセラセラ」、ホーンとコーラスが華やかなリード曲「適当な闇」と、序盤からクライマックス級の良曲が並ぶ。

後半は失速するかと思いきや、M-7「ゴールデンターゲット」以降さらに加速し「Song of Sick」で再び爆発する流れは圧巻。正味アジカン越えとるがな。

 

本作のリリース後バンドメンバーの離脱があり、現在はフロントマンである下村亮介のソロプロジェクトとなっている。

最新作「Feeling」は打ち込み主体の全く毛色の異なる作品なので、どちらを好むかは人によると思いますが、個人的には「回転体」をお勧めします。

 

 

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5. Weezer / Weezer (1994)


ここから洋楽。


まずはアメリカが誇るパワーポップバンド、みんな大好きWeezerの1stアルバム。

「捨て曲がない 名盤」でGoogle検索するとこのアルバムがヒットするぐらい散々擦られてきた通称"Blue Album"。

 

ヒットシングル"Buddy Holly"、"Say It Ain't So"を含む全10曲の簡潔な内容、これぞウィーザー!な王道の泣きメロと余計なテクニックを排したシンプルな演奏だけで最後まで駆け抜けていく。

1990年代の初頭にNIRVANAが席巻して以降ヘビーでシリアスなロックが主流となったが、このアルバムはそこを敢えて逆手に取り人気を獲得した。実はかなり策士な人たちなんです。

 

かなり多作なウィーザーの膨大なディスコグラフィーをすべて追うのは結構大変なので、まずはこのアルバムとGreen Albumを聴けば間違いは無いでしょう。

 

Weezer

Weezer

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6. Two Door Cinema Club / Tourist History (2010)

 

2007年北アイルランドで結成されたインディーロックの雄、Two Door Cinema Clubの1stアルバム。

 

2000年代中盤辺りからアークティックモンキーズを中心に盛り上がりを見せたUKロックの流れを引き継ぎながら、よりポップで軽快なダンスロックに特化したサウンドが特徴のTwo Door Cinema Club

日本のリスナーからも絶大な支持を得ており、後発のダンスロックバンドは漏れなく比較されるようになってしまった金字塔的な作品。

 

よっぽど感性が老けていない限り、洋楽の入り口として最適なアルバムだと思います。一部の過激派洋楽大好きおじさんが軟派だと非難する標的にも挙げられがちですが、普通にギターロックを楽しめる方なら間違いなくハマるはず。

バンドのアンセムとなったM-8「What You Know」を始め、時を経てTikTokでバズり倒した「Undercover Martyn」、エレクトロポップな感触が強めな「Eat That Up, It's Good for You」等、親しみやすくも没個性ではない革新的なダンスロックを堪能できます。

 

小難しい理屈は抜きにして只管享楽的なグッドミュージックを浴びるほど摂取したい、そんな今回の記事のテーマに打って付けな一枚。

これを聴いて取っ付き辛いと感じた方は潔く洋楽を諦めてください。一生KEYTALKの歌詞の意味とか考察しててください。

 

Tourist History

Tourist History

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7. Death Cab For Cutie / Kintsugi (2015)


1997年結成のオルタナティブバンド、Death Cab For Cutieの通算8枚目となるアルバム。

金継ぎ=割れた陶器などを修復する技法という意味の日本語がタイトルに冠されており、日本人でも馴染みのない単語のチョイスにインテリジェンスを感じる。

 

個人的に国外のバンドの中でも3本の指に入るほど好きなデスキャブなのですが、中でも1番好きなアルバムがこのKintsugi。

初期のポストロック路線からメジャー以降のキラキラしたエモ路線を経て、もう一度音楽的な変化を遂げた本作。少し内省的でシリアスなサウンドに豊潤なコード感でより深みのある音像になった印象。

後期GRAPEVINEにも通じる部分があって、バイン好きには間違いなく響くであろう1枚。

 

もはや捨て曲がないのは言わずもがなだが、M1「No Room In Flame」からM4「Little Wanderer」までの怒涛の名曲ラッシュはいかつい。デスキャブの持ち味である美メロを急極にまで研ぎ澄ました職人芸のような楽曲群が並んでおり、全体のバランスや流れも緻密に計算されていて聴きやすい。これが結成18年にして成し得るのだからそりゃあ好きになるっしょ。いかつい。

 

オルタナ、ポストロック好きに限らず未聴の音楽好きは全員聴くべし。名盤です。

 

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8. Toro y Moi / Outer Peace (2019)


最後にご紹介するのは、アメリカの歌手Toro y Moi(トロ・イ・モア)による7作目。

 

日本での知名度はあまり高くないが、音楽好きなら知ってて損のない確固たる評価を得ているおっさんです。

 

彼の音楽性は作品ごとに結構毛色が異なり、どの作品を好むかは人それぞれな気がするが"捨て曲なし"という軸に沿って選ぶならこのアルバムかと思われる。

初期のサイケポップ路線、4thアルバム辺りからのファンク路線に続き、一気にエレクトロ路線にシフトチェンジした本作。

ちょうど2019年辺りから日本でもこの手のエレクトロポップ系のアーティスト(SIRUP、TENDRE等)が台頭してきた事もあり、流行りに乗っかった印象も抱きかねないが、流石は10年選手のトロ・イ・モア。そこらの新人とは地盤がまるで違う。

 

本作で最もキャッチーなリード曲「Freelance」がアルバムの折返し地点に配置されており、トータル30分弱と収録時間も短めで、ダレる事なく最後まで聞き通せるのも魅力。変に逆張りせずリスナーの需要を分かっておられる。

「Ordinary Pleasure」や「Who am I」などのハッピーでダンサブルな楽曲はもちろん、「Law Of the Universe」「New House」など初期のサイケ路線とエレクトロが融合したハイブリッドな楽曲も巧みに織り交ぜ、セルアウトにならず耳の肥えた音楽オタクにも優しい楽曲構成となっている。

 

この記事が出る少し前、約3年ぶりにリリースされた新譜「MAHAL」は、初期のサイケロック路線を更に深く掘り下げた超ディープなサウンドに変化してます。

こんなにアルバム毎に作風が変わるのは清竜人かコイツぐらい。ンモォニンサアァォォンン

 

Outer Peace

Outer Peace

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まだまだ紹介したい作品が沢山ありますが、今回はここまで。

 

最後に、今回紹介した作品に加えて個人的に選んだ捨て曲なし名盤をプレイリストにまとめました。

捨て曲の良さが分からないあなたも、分かるあなたも、そこに差はありません。何卒ご自愛ください。

 

 

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2022年上半期の良かったアルバムを紹介するよ【邦楽3選・洋楽3選】

 

皆さんごきげんよう

 

今年もこの季節がやってきた。2022年の上半期、私が特に気に入ったアルバムを紹介する記事となっております。

今年は特に海外アーティストのリリースが活発で、近年稀に見る豊作の年だった事もありかなり選定に迷いました。さて一体何が選ばれたのか。

 

 

 

中村佳穂 / NIA

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2021年は映画「竜とそばかすの姫」で主人公の声優を担当、millennium paradeとして紅白歌合戦への出場を果たすなど、その才能がポピュラー層にまで轟いた印象の中村佳穂。

ここ最近のオンラインライブなどを見ると、音楽が楽しすぎてナチュラルハイみたいになっている佳穂パイですが、約4年を費やした本気の作品はやはり凄かった。

 

2019年にリリースした配信シングル3作が軒並み素晴らしく、次のアルバムへの期待も高まっていたタイミングでコロナ禍に見舞われ、制作活動も一時中断せざるを得なかった。

そんな状況から約2年を経て感じた心境の変化や、疲弊した人々への讃美が随所に感じられる1枚となっている。

アグレッシブで博愛に満ちた序盤の流れから、内省的でシリアスな終盤へのグラデーションが非常に自然で、アルバム全体の流れも計算しつくされているのが分かる。

前作に引き続き自主レーベルからのリリースということもあり、時間や制約に縛られていない伸びやかな制作スタイルが存分に活かされた作品となっている。

 

リリース後にM-8「MIU」のミュージックビデオが公開されていて、初めて中村佳穂本人が登場する素晴らしいビデオなのですが、何故かまったく伸びてないので必ず見てください。ちなみに僕もこの記事を書くまでミュージックビデオ出てたの知りませんでした。宣伝大事。

 

 

 

春ねむり / 春花燎原

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2016年から活動しているシンガーソングライター、春ねむりの2ndフルアルバム。

ポエトリーと歌メロを行き来する独特な歌唱法で徐々に知名度を上げ続けていた彼女。フルレングスとしては約4年ぶりとなる渾身の作品ですが、想像以上に喰らっちゃいました。

 

内容は全部で21曲入り、トータル1時間20分越えの超大作となっている。聖歌のようなオープニングからM-2「Déconstruction」への流れで一気に掴まれて、M-3「あなたを離さないで」の狂気と焦燥が爆発する瞬間は鳥肌モノ。

サウンドの面でも非常に精巧で、楽曲ごとにロック、パンク、ヒップホップ、ゴスペル、ハイパーポップなど様々なジャンルを縦横無尽に行き来する飽きさせない構成になっている。忘れてはならないのが、作詞だけでなくトラックも全曲セルフプロデュースであること。もうね、ヤバいんすよこの人。

 

今作の最重要ナンバーであるM-20「生きる」は、日本のポエトリーラッパーを代表する存在であった不可思議/wonderboyの「生きる」という楽曲をモチーフにして作られた楽曲であり、2011年に不慮の事故で他界した不可思議/wonderboyへの追悼も込められた楽曲と言える。跳ねの効いたビートと歌詞の対比が斬新で、一度聴いたら忘れられないパワーを持った楽曲だと思いました。間違いなく彼女の最高傑作であり、2022年のベストソングの筆頭になること間違いなしの大名曲。

 

陰鬱とした現代社会に強烈なカウンターパンチを喰らわす会心作。必聴です。

 

 

 

坂本慎太郎 / 物語のように

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言わずと知れた孤高のシンガーソングライター、元ゆらゆら帝国のフロントマン坂本慎太郎

6年ぶりとなる待望のニューアルバムは、予想を裏切り期待を裏切らない最高の作品でした。

 

今作はソロ転向後の過去作と比べて、比較的ポップで明るいナンバーが多く耳馴染みのよいアルバムだなという印象。

「この数年で世の中の閉塞感が更に強まっているのを感じていて、それを突き抜けるようなものをやりたい」と本人がインタビューで語っているように、鬱屈とした現代社会から一時的に逃れられる理想郷のような心地良さが確かにある。

 

小難しい高尚すぎる音楽が苦手な筆者は、一聴したのち「ポップで聴きやすい!最高!わーい!」と呑気に喜んでいたのだが、何度か繰り返し聴くうちに「あれ、、これもしかして今までで一番悲しいアルバムなんじゃ、、」と愕然とした。

これまでの作品で、現代に混在する矛盾や社会悪に対しての静かな警告のようなアイロニーを鳴らしてきた坂本慎太郎が、この閉塞しきった2020以降の現代社会でこの音を鳴らさなければいけなかったという意味。

それを理解した後、1曲目の「それは違法でした」を聴けばすべてが変わって聴こえてしまうのです。

 

 

 

Rex Orange County / WHO CARES?

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ここから洋楽。

 

イギリスのシンガーソングライター、Rex Orange Countyの通算4枚目となるフルアルバム。

前作「Pony」が全米3位を記録、その才能が一気に広まり期待が高まる中リリースされた3年ぶりのフルアルバム。

話題作目白押しだった2022年の洋楽シーンの中で、一際ポップスとしての純度が高く筆者のツボをゴリゴリ刺激されっぱなしのアルバムでした。

 

カノン進行を用いて晴れやかにオープニングを飾るM-1「KEEP IT UP」に始まり、タイラー・ザ・クリエイターをゲストに迎えたM-2「OPEN A WINDOW」、心地良いビートで翳った心情を歌うM-8「THE SHADE」など、至極のポップソングが並んでいる。

個人的ハイライトは、穏やかな多幸感と切なさが同居したラブソングM-4「AMAZING」。随所に入るストリングスの音色が、煌びやかなのに押し付けがましくならない絶妙な音使い。こんなラブソング捧げられたら一瞬で落ちるわ。

 

穏やかで切ない究極のノスタルジーに浸れる珠玉の一枚。

 

 

 

FOALS / Life is Yours

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イギリスのロックバンド、FOALSの通算7枚目となるフルアルバム。

 

2019年には「Everything Not Saved Will Be Lost」と題されたアルバムを二部作に分けてリリースするという壮大なプロジェクトを遂行。従来のダンスロックから派生したアート寄りな音楽性をどっぷりと見せつけた大傑作であった。

それから約3年、今作は「史上最もポップな1枚」と本人が語っているように、思わず踊りだしたくなるようなご機嫌なナンバーが並ぶ作品となっている。

 

特に前半の楽曲群は必殺級で、M-2「Wake Me Up」M-4「2001」など、小難しい事は抜きにして本来の音楽が持つ快楽性を追求した骨太なダンスロックが並ぶ。

短いインタールードを挟んだ中盤~後半は少し緩急をつけながらも終始リズミカルな一本軸が通った楽曲構成となっている。終盤の肝となるM-10「The Sound」は少し懐かしいエッセンスを感じながら心地良いカッティングギターに酔いしれることのできる上質なファンクナンバー。

ファンクやダンスビートを基調とした音楽は近年色んな方面で流行って来てるなと感じるが、15年ぐらい前からそういう事やっててガッチガチな地盤を持っている中堅バンドの本気を見せられた感じがしました。また何年後かでいいので、もっとマスロックに接近した音楽性のアルバムを出して、世界にマスロックの波を再来させてほしいな。

 

 

Father John Misty / Chloë and the Next 20th Century

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最後はアメリカのシンガーソングライター、J・ティルマンのソロ名義での活動であるFather John Mistyの通算5枚目のアルバム。

 

彼の作品としては通例通り名門レーベルSub Popからのリリースということで、クオリティにはお墨付きとも言える今作。

2017年にリリースされたアルバム「Pure Comedy」が大傑作だったこともあり、まあ期待を大きく下回る事はないだろうと思ってはいましたが、むしろ期待を上回る素晴らしい作品でした。

 

"Chloë(クロエ)"という一人の女性と、その周りを取り巻く歴史の循環が大きなテーマとして掲げられている今作は、がっつりコンセプトアルバムという程ではないけれど全曲通して一貫した空気感が漂う、程好い統一感に満ちた作品となっている。

70年前にタイムスリップしたかのようなオールドタイム・ジャズのような音色でオープニングを飾るM-1「Chloë」に始まり、風通しの良いアコースティックギターで軽やかに鳴らすM-2「Goodbye Mr. Blue」短調長調を巧みに使い分けながらストーリーテラーのような視点である男女の別れを歌うM-4「[Everything But] Her Love」など、序盤から豊潤な音遣いと巧みなソングライティングを凝らしたヘビーな一撃を連発。

後半の核となるM-8「Funny Girl」は全曲の中でも特に優れた出来で、シネマティックなオーケストレーションが目立つ今作を象徴する珠玉の1曲となっている。

 

ストリングス、ホーン、ピアノと、一貫してプリミティブな楽器のみで構成されている今作だが、ラストを飾るM-11「The Next 20th Century」の間奏で突如バリバリに歪んだディストーションギターでのソロが鳴り響く瞬間は鳥肌モノ。20世紀と21世紀の音楽が重なる瞬間を体現しているような圧巻のギターソロとなっている。

 

まさにベテランの意地といった渾身の一作。是非聴いてほしい。

 

 

 

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最後に、記事で紹介した作品を含む2022年上半期の個人的ベストトラックをまとめたプレイリストを作成しましたので貼っておきます。

興味ある方は是非聴いてみてください。

 

 

土居泰地の「2022上半期ベストトラック」をApple Musicで

 

 

 

 

 

あなたの知らないカップリング曲の世界 ~邦楽に隠されし耽美な深淵~

 

皆様は、”カップリング曲”と聞いてパッと思い浮かぶ曲はありますでしょうか。

 

 

音楽好き、延いてはこの記事に興味を持って飛んできてくれた方なら、おそらく一つや二つ思い浮かぶのではないでしょうか。

 

今回はそんな”カップリング曲”に多大なる思い入れを持った筆者が、ただただそのフェチズムを晒す記事になっています。

商業音楽における”秘境”とも言えるカップリングの魅力を、今一度発見して頂ければこれ幸いです。

 

 

あなたの知らないカップリングの世界 ~邦楽に隠されし耽美な深淵~

 

 

①基礎知識編

 

カップリングってそもそも何?

音楽好きな皆様にはもはや説明不要かと思いますが、今一度カップリングについて説明すると、シングルCDにおいて表題曲と一緒に収録されている楽曲の事で、本来プロモーションに使う曲が1曲入っていれば商品として成り立つところを、もう1曲付いてくる事でお得感アップ!という画期的なシステムなのです。

 

・B面、C/W、とか色々言い方があるのは何故?

B面は、アナログレコード時代の良い方の名残。アナログレコードは盤の両面に音を収録できるため、表と裏に1曲ずつ収録し「A面」「B面」という呼び方が浸透した。

 

C/Wは「Coupling With」の略。

 

・洋楽にもカップリングはあるの?

アナログレコード時代は邦楽同様”B面曲”は数多く存在し、A面の人気を上回る事もそこそこありました。

90年代以降のCDシングルに変わってからは邦楽に比べてカップリング文化の浸透は薄い印象で、表題曲のリミックス過去曲のリカットなどが収録されることが多いようです。

レッチリFoo Fightersなど一部のバンドは、アルバム未収録のカップリング曲を大量にリリースしていますが、日本のようにB面集的なアルバムも出しておらず、ほとんどがサブスク未解禁だったりするので厄介。

 

 

 

②邦楽におけるカップリングの歴史編

 

時を遡る事およそ90年。日本で最初のレコード商品と言われる、1928年にビクターから発売された藤原義江の『出船の港』というシングルレコード。

このレコードのB面には『出船』という別の曲が収録されているので、日本においてカップリングの歴史は、レコードの最初期から始まっていると言えます。

 

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こうしてレコードが普及したのち、1980年代にCD(コンパクトディスク)の普及が広まっていきます。

知っての通り、CDはレコードのように両面に音を収録することはできませんが、B面はカップリング”としてその文化を残す事に成功するのです。

 

1990年代前半から始まったCDバブルと言われるCD売り上げの黄金期には、J-POPにおいてシングルの表題曲だけでなくカップリング曲からヒット曲が生まれる事もしばしばありました。

 

ラブ・ストーリーは突然に

ラブ・ストーリーは突然に

  • 小田 和正
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

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1991年にリリースされた小田和正のシングル『Oh! Yeah!』のカップリング(正式には両A面シングル)として発表された『ラブ・ストーリーは突然に』は、A面よりもヒットしたB面曲として有名。

 

その他にも、

DREAMS COME TRUE『未来予想図Ⅱ』(『笑顔の行方』のカップリング)

PRINCESS PRINCESSの『M』(『Diamonds』のカップリング)

中島みゆきの『糸』(『命の別名』と両A面)

など、よく知られるヒット曲がカップリングから生まれたのもこの時代の特徴と言える。

 

ただ、実は上記の曲はすべて「過去のアルバムからのリカット」という形での収録なので、カップリング用に作られた訳ではなく既出曲の中でシングルヒットしそうな曲を選んで収録されています。これもあまり知られていない事実。

当時はメジャーデビューしたばかりのアーティストが世間から全く注目されない事も多く、売れていない時期のアルバムに何気なく収録した売れ線の曲を、「お前ら売れてないから次のシングルにこの曲入れて出せよ」的なレコード会社からの圧力も多少はあったようで、それが結果的に功を奏したという時代でした。

 

 

 

③邦楽ロックにおけるカップリング編

 

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先程のセクションで紹介したJ-POPにおけるカップリング曲の体系を経て、2000年代前半辺りから邦楽ロックを中心にカップリング曲のクリエイティブ化”が進んでいきます。

 

90年代のように売れ線でヒットを狙うようなカップリングではなく、よりバンドのソングライティング力を重視した楽曲だったり、新たな一面を見せる好奇心に溢れた楽曲を作るアーティストが増えてきます。

それまではオリジナルアルバムに収録される事が多かったが、この辺りからオリジナルアルバム未収録の、シングルを買わないと聴けないカップリング曲が急増しました。

アルバムに収録されなかった楽曲をまとめた「B面集」と言われるアルバムも、この時代のシングルを出していた邦楽ロックバンドは大概出しています。

 

そして2000年代の邦楽ロックにおいても、90年代以前に見られたカップリングのA面食い現象”が度々起こっていて、ただ前者とは違いこの時代はそんなカップリングですらオリジナルアルバムには収録されず、後にファン投票などによるベスト盤に圧倒的上位で組み込まれるという事態が頻発します。

 

このような事からも2000年代の邦楽ロックにおけるカップリング曲に対する価値観は、それまでの商業的戦略を重視したイメージから、よりアーティストのクリエイティビティにフォーカスしたものへとシフトしていきました。

 

 

④筆者が紹介したいカップリング名曲たち

 

 

THE BACK HORN / 真夜中のライオン (2010年発売『閉ざされた世界』収録)

真夜中のライオン

真夜中のライオン

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先程述べた邦楽ロック名物”A面食い”の1曲。オリジナルアルバム未収録ですがファンからの人気も高く、ライブでも表題曲より頻繁に披露される。

掴みからこれでもかと聴き手の高揚を煽るキャッチーなロックナンバー。イントロで小さく鳴っている山田将司(Vo.)による遠吠えのような雄叫びも、ライブでは爆音で堪能できます。

もう一つのカップリング『警鐘』も素晴らしい。

 

 

スピッツ / 孫悟空 (2002年発売『水色の街』収録)

孫悟空

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『猫になりたい』ではなく、敢えてこっちをチョイス。

スピッツカップリング曲たちを聴いていると、勝手ながら筆者のフェチズムと非常に似た感覚を持っているんじゃないかと感じられる節がめちゃくちゃあって、毎シングルごとにバラエティ豊かなカップリング曲を提供してくれる稀有な存在。

この曲に関しても、「うわ~カップリングやな~」と唸ってしまうマニアックなアプローチをしていて、シングルで出すような普遍的なポップスもちゃんと作りつつ、こういった遊び心のある楽曲でコアなファンの心も離さないでいてくれるスピッツはもはや彼氏。出来過ぎた彼氏。ずっしょ。すきぴ。

 

 

BUMP OF CHICKEN / キャラバン (2010年発売『魔法の料理 ~君から君へ~』収録)

キャラバン

キャラバン

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『ラフメイカー』など有名なカップリング名曲も持っているチキン兄さんですが、個人的なフェチズムをより擽られたのはこの曲。
これの素晴らしい点はズバリ”表題曲との対比”。「NHKみんなのうた」にも起用された『魔法の料理〜君から君へ〜』カップリングにこの凶悪なグランジロックを同梱するという、ある意味リスキーな試みでもあるけれどファンには堪らない1曲。
チキン兄さんのシングルはどれも表題曲とカップリングの対比が面白く、どれも買う価値があった。隠しトラックも含めて。

 

 

GRAPEVINE / エレウテリア (2007年発売『超える』収録)

エレウテリア

エレウテリア

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日本屈指の”カップリング名手”でもある孤高のロックバンド、GRAPEVINE

バインはB面集だけ聴いてもそれなりに退屈しない程にはカップリング曲が充実していて、ここでも本当に紹介しきれない程名曲が沢山あるのですが、やはり1曲選ぶならこの『エレウテリア』でしょう。

オリジナルアルバム未収録ながら、2012年に発売されたベスト盤の収録曲を決めるファン投票で、名だたる楽曲群を抑えて3位にランクインし見事ベスト収録を果たしたお墨付きの1曲。

筆者もこの楽曲には並々ならぬ思い入れがあり、この曲をやるかもしれないという理由で毎回ツアーを観に行っていると言っても過言ではないぐらいライブで一度は聴きたい楽曲。

本人たちにとっても思い入れの強い(多分)楽曲で、ライブではここぞという大事なライブの大ラスで披露される事が多い。

歌詞、メロディー、コード進行、どれを切り取ってもソングライティングの結晶の様な輝きを放つ、全ての瞬間が美しい珠玉のバラード曲。これをドラムの亀井さんが作曲しているんだから溜め息が出るわ。

 

 

岡崎体育 / チューリップ (2016年発売『潮風』収録)

チューリップ

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これまで挙げたパターンとは少し異なり、「表題曲のタイアップ用に作ったがボツになった曲」という邦楽のメジャーシーンで稀に見られるケース。
この曲は「舟を編む」という小説原作のアニメのタイアップ用に作られたが、制作側から「もっと岡崎体育らしいポップな曲にしてほしい」と没にされ、結果的に表題曲の『潮風』が採用されたという。ただ岡崎体育自身もこの曲を気に入っていたためカップリングに収めたらしい。
このように、ある種の誤解を解く手段としてカップリングが使われる事もあります。岡崎体育は一見コミカルなポップソングを得意とするように見えて、実は音楽的背景が非常にしっかりしていて多彩な作曲家だという事を、この曲を通じて世に知らしめる事ができたのではないでしょうか。

 

 

⑤最後に

 

何故私がここまでカップリング文化に惹かれるのか、そしてこのカップリング文化が特に邦楽において深く根付いたのかを考えたところ、”日本人の持つ豊かなサービス精神”が深く関わっているのではないかと考えます。

 

例えば、会話が面白い人って身の周りに何人か居ますよね。

その人と話すたびに笑わせてくれる、言わば話術が巧みな人って一定数居ると思うんですが、あの人達って別にそれでお金を貰ってるわけでは無いんですよね。当たり前だけど。

今回取り上げた”カップリング曲”の魅力も、それに通ずる部分があると思っていて、要はアレって”サービス精神の具現化”だと思うんです。

 

正直カップリング曲も表題曲と同じように次のアルバムに入れた方がアーティスト側からすれば楽に決まっているし、入れないにしてもカラオケバージョンとか有り物のライブ音源とか入れておけば、CDの価値は十分賄えるんです
それでも先人達は、ここでしか聴けない1曲を作って届けてくれるのです。A面では見せない顔を見せてくれるのです。これは偏に、サービス精神の表れではないでしょうか。
日本人らしい豊かなサービス精神こそが、邦楽においてこんなにもカップリング文化を定着させた最も大きな理由だったのではないでしょうか。


アナログレコードの始まりから現代まで様々な変容を遂げてきたカップリングという文化が、少しずつ薄れて来ているように感じています。
デジタル化と共にCDの需要も薄れていき、CDの価値を底上げする為のカップリングも自ずと少なくなっていくと思います。
でもやっぱり私個人の願いとしては、カップリング文化を完全に無くすのは余りにも勿体無いと思うのです。

そのアーティストが持つ豊かな音楽性だったり、パブリックイメージに捉われない尖った精神を見せる事で、新たな魅力を人々に示すことができるツールだと思います。

 

この先どんなに影を潜めようと、私はこのカップリング文化の灯を消さないように大事に伝えていきたいと思っています。

 

 

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最後に、私の一存ではありますが個人的に好きな邦楽のカップリング名曲を集めたプレイリストを作成しました。

オリジナルアルバム未収録カップリング曲に限って選曲しています。シンプルに名曲と言えるものから、「ザ・カップリングやな~」なマニアックな曲まで幅広くセレクトしましたので、興味のある方は是非聴いてみてね。

 

それでは、さらなる深淵でお待ちしています。

 

 

 

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*1:日本で最初のシングルレコードと言われる藤原義江『出船の港』(1928)。

2021年下半期の良かったアルバムを紹介するよ 【邦楽3選・洋楽3選】

 

皆さんごきげんよう。今年の冬は寒いですが、いかがお過ごしでしょうか。

 

2021年も間もなく終わりますが、筆者は相変わらず音楽を愛し抜いた1年でした。もうほんまに好っきゃねんな。ズッ友やねんな。

 

皆さんはどうせ音楽なんかもうとっくに飽きて好きなYouTuberばっかり見てると思うので、筆者が隅々まで聴き尽くした音楽の中から特に良かったアルバムの中から数作品ピックアップし紹介するという神企画でございます。

 

上半期編に続き、下半期も名盤揃いでした。シャイニングスターばっかり聴いてないで色々聴いてみよう。

 

 

折坂悠太 / 心理

 

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まずは下半期の最ベタから。まさか知らないとは言わせないぜ。

 

このブログでも何度か取り上げたことのある新世代シンガーソングライター折坂悠太氏の3年ぶり3枚目のフルアルバム。

 

前作「平成」が2019年のCDショップ大賞を受賞し、翌年発表されたシングル朝顔はドラマ主題歌としてロングヒット。尖った音楽性ながらしっかり大衆に届くソングライティング力を持っている彼の3年ぶりのフル作は、間違いない名盤でした。

 

元々2020年にリリースされる予定だった今作は、コロナ禍の影響で製作が一旦中断。製作再開に当たり収録曲も変更され、先行シングル「トーチ」「春」の2曲も新たにレコーディングし直された経緯があります。

楽曲自体はコロナ禍以前に作られた楽曲が多いので、歌詞や表現に大きな変化がある訳ではないけれど、より新鮮でリアルな彼の心理をパッケージングしている事もあり、アルバムを通して緊張感が伝わってきます。

 

何よりシンプルに1曲1曲の完成度が素晴らしく、全13曲という大ボリュームな内容にも関わらずあっという間に聴き終えてしまいました。

個人的には中盤の「鯱」からの「荼毘」の流れがめちゃくちゃ好きですね。折坂君の物凄く深い部分を覗いている気分になります。

 

 

State of Mind

State of Mind

  • 折坂悠太
  • J-Pop
  • ¥2241

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D.A.N. / No Moon

 

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櫻木大悟(Gt,Vo,Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)の3人からなるオルタナティブバンドD.A.N.の3年ぶり3作目のアルバム。

 

1stアルバムD.A.N.が、デビュー作とは思えない独自の音楽性で注目を集め知名度も一気に上昇した大名作なのですが、それ以降の活動は比較的マイペースな彼ら。

今作もインディーズレーベルからのリリースという事もあり、1stの頃に比べると注目度は薄まってしまった印象。

ただ、それでは余りにも勿体ないと声を大にして言いたいくらい、めちゃくちゃ良いアルバムでした。今作はヤバいです。

 

彼らのサウンドに通底している”ダンス”と”浮遊感”という要素はしっかりと残しつつ、よりディープで緻密な音作りと鬱屈とした現代社会を反映した歌詞が乗っかって何重にもアップグレードした楽曲群に仕上がっています。

どちらかというと暗いアルバムではあると思うけれど、それを”ダンス”の要素が上手くカバーしていて、本能的に興奮できるビート感と理性的な面を兼ね備えています。

正直個人的には、1stの頃から楽曲がどうしても似通ってしまいがちなバンドだなと思っていた部分もあったんですが、今作は全曲通してしっかり個性が粒立っていて完璧だと思いました。同じように感じていた方が居たら、是非聴いてほしいなぁ。

 

更に録音は早乙女正雄氏、ミックスは髙山徹氏という国内屈指のエンジニアが手掛けており、音がめちゃくちゃ良いです。インディーズでここまで良い音で作れるなら、そりゃメジャー行く気もないだろうよ。

 

1stから離れていた方、是非今のD.A.N.を聴いてみてほしい。

 

 

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Analogfish / SNS

 

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1999年に結成されたもはやベテランバンドの仲間入りを果たしたとも言えるAnalogfish (アナログフィッシュ)。

2005年リリースの「スピード」はアニメNARUTOのエンディングテーマに起用されるなど、メジャーシーンでの活躍を経て現在はインディーズレーベルfelicityに所属している彼ら。

今作は通算11枚目のフルアルバムという精力的なリリースを続けています。

 

筆者の同世代であれば「スピード」だけ知っているという方も多いと思いますが、近年の彼らに当時の面影は全くありません。こいつらはもう「アナログフィッシュ」ではなく、"Analogfish”なのです。

 

まあインディーズに戻ってからの活動も長いバンドではあるので、今作が特段大きな変化を遂げたきっかけという訳ではないのですが、なんせ良いアルバム。とても良いアルバムでした。

楽曲は佐々木健太郎(Ba./Vo.)と下岡晃(Gt./Vo.)の両名がそれぞれリードボーカルと作詞作曲を担当するスタイルをとっており、通例では作曲者がメインボーカルを務める事が多いようです。

 

今作はダンスミュージックをテーマとしている事を公言しており、全体を通して煌びやかでビート感強めの作風となっています。

結成以来初めての試みだという、下岡さんが作曲をし佐々木さんがメインボーカルを務めるM-3「Is It Too Late?」は今作の肝と言える楽曲なのですが、正直キャリア史上最高傑作レベルの楽曲だと思いました。

 

音数、構成ともに最小限を更に削ったレベルのミニマルな作りで歌詞の響きを最大限まで前面に引き出したアレンジが完璧に功を奏していて、サウンドだけでなく歌詞もしっかり伝わるアレンジに仕上がっています。

 

前作「Still Life」よりもポップでメロディが立っている作風で、前作の方が好きな方もいると思いますが、個人的な好みは今作の方が好きでした。

ベテランの貫録を感じた1枚でした。必聴だってばよ。

 

 

SNS

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The War On Drugs / I Don't Live Here Anymore

 

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ここから洋楽。

 

アメリカのロックバンドThe War On Drugsの通算5枚目となるアルバム。前作「A Deeper Understanding」が、第60回グラミー賞の最優秀ロックアルバム賞を受賞するなど、作品をリリースするごとに確固たる地位を築き上げている彼らの4年ぶりとなるアルバムは、まさに盤石と言える完成度でした。

 

このバンドの最大の持ち味である抒情的で切ないサウンドを活かし、少し内省的な方面へ舵を切った印象。やっぱり2020以降の音楽は世界中どこでもシリアスになりがちなよう。

M-1「Living Proof」から肌寒い空気感と抒情的な空気を纏った美しい幕開けで、とにかくサウンドスケープが美しい序盤の流れは完璧というほか無い。

中盤の核を担うタイトルトラック「I Don't Live Here Anymore」は、アメリカのインディーロックバンドLuciusをゲストに迎えより壮大な仕上がりに。

 

The War On Drugsといえば曲が割と長尺なイメージがあったのですが、今作は全曲スタンダードな長さに収められていて聴きやすくなった印象もあったので、入門作としてもオススメできる一枚だと思いました。

 

 

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Parcels / Day/Night

 

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Parcelsは、2014年に結成されたオーストラリア出身の5人組バンド。

 

2017年に発表されたデビューシングル「Overnight」で、他アーティストのサウンドプロデュースをするのは初めてというDaft Punkがプロデュースした事でも話題になりました。

 

今作は通算2枚目のフルアルバムという事で、筆者は恥ずかしながら今作を聴くまでこのバンドを知りませんでした。もっと早く知っていたかった。

今作はミックスにArctic Monkeysなどを手掛けるJames Ford、アレンジにOwen Pallettを起用し、全19曲の2枚組という特大ボリュームのアルバムとなっています。

 

噂によると前作よりも音楽ファンが騒がなかったらしい今作。個人的にはもっと騒ぐべき大名盤だと思いました。

勿論1stも今回知ったタイミングで聴いたのですが、まずソングライティング力が格段にパワーアップしています。2枚組というと少々ハードルが高いと思いますが、中身はファンク、ディスコを軸とした良質なポップソングに溢れていて、更に楽曲が変わるごとに色んな音楽ジャンルを取り入れながら多彩に移り変わっていくので、全く飽きる事なく最後まで聴き終えることができます。

 

1枚目はDayをテーマに、2枚目はNightをテーマに纏められていて、コンセプトにも沿っていながら別々に聴いても楽しめる点も魅力的。洋楽の2枚組ってだいたいDisc.2がちょっと冗長に感じがちだけど、どちらも遜色ない出来栄え。

1枚目の核となる「Somethinggreater」、2枚目の核となる「Famous」はどちらも必聴です。ここ数年の邦楽シーンにも通ずる豊潤なコード感ポップセンスを兼ね備えている稀有なバンドだと思います。

 

まだまだ知らない人が多いバンドだと思いますが、是非聴いてみてほしい。

 

 

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Aimee Mann / Queens of the Summer Hotel

 

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最後は今年1マニアックな選出をしてみました。これ知ってる人いたら連絡ください。

 

Aimee Mann (エイミー・マン)は、アメリカ出身のシンガーソングライター。元'Til Tuesdayというバンドで活動していた彼女は、1990年頃からソロシンガーとして活動しています。なんと御年61歳。最年長。

バンドの頃から数えれば実に35年を超えるキャリアを持つ彼女ですが、こちらも恥ずかしながら最近まで知らず。落第よ、洋楽おじさんになることを恐れるな。

 

エイミーマンは以前、映画17歳のカルテの原作であるスザンナ・ケイセンの自伝Girl, Interrupted (思春期病棟の少女たち)』という舞台の音楽を担当する予定だったが、コロナの関係で舞台の計画が中断。そこでスザンナ・ケイセンの自伝にインスパイアされた15曲を収録したという今作。

彼女は今作のように、特定の映画や舞台作品からインスパイアされたアルバムを多く作っていて、ある種サントラ的な聴き方もできるのが特徴。

 

最初に聴いた時はそのエピソードを知らずに聴いたのですが、単純にアルバムとしての完成度が高すぎてビックリしました。後からエピソードを聴いてもう一度聴き直すと、腑に落ちると同時に違った良さを発掘できる感覚がありました。

 

長年のキャリアで培われた抜群のソングライティング力と、ポール・ブライアンという方によるオーケストレーションのアレンジ力が、荘厳で迫力のあるサウンドを作り上げていて、全編通して統一感もありながらそれぞれに個性的なアプローチをしていて、何というか本場の強さみたいなものをまざまざと見せつけられたような作品でした。

 

名盤と言われる作品によく起こりがちな「あ、これ絶対自分が名盤作ってるって気付いたな」っていうポイントがあって、今作にもそのオーラを感じて楽しくなりました。もう途中から自分でもこれ名盤だなって気付いて曲作りが超楽しくなってるんだろうなっていうあの感じ。僕も一度は味わってみたいものです。

 

鬱屈とした現代社会にひっそりと生まれた至高の名盤、ご賞味あれ。

 

 

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いかがでしたでしょうか。今年もあっという間に終わってしまいましたが、たくさん良い音楽を発見できて嬉しい限りです。文明に感謝感謝~

 

6月末に上げた上半期編と合わせて、2021年のベストアルバムたちをどうか一つだけでも興味を持ってもらえるとありがたい限りです。

あとアルバム編だけでなく、単曲で紹介したい楽曲も沢山あるので、Twitterなんかでそのうち紹介できればと思います。

 

それでは、今年もありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。ばいころまる~