しりとり名曲紹介 No.20 [tiny pride / クラムボン]
あっという間にこのシリーズも20本目となりました。めでたい。
あんまり実感はないかもしれないけど、1本目から曲名を繋いでいくと本当にしりとりになってますからね?僕そこだけはズルしないですからね?
もし見逃している記事などありましたら、記事のタイトル下にある「しりとり名曲紹介」という所をタップすると過去の記事にも飛べたりしますので、これを機に一気読みしてみるのも乙ですよ。
概要
・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。
・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。
・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。
(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。
tiny pride / クラムボン
1995年結成、1999年にシングル「はなれ ばなれ」でメジャーデビュー。2019年現在までオリジナルメンバーのままで活動している3人組バンド。
ピアノボーカルを担当する原田郁子さんの伸びやかで愛嬌のある歌声と、作曲を主に担当するベースのミトさんの多様なソングライティング、ドラム伊藤大助さんの超絶技巧派フレーズが特徴で、ミュージシャンや音楽関係者がこぞってフェイバリットに挙げるバンドでもあります。
2000年代前半のバンドとかマニアックな音楽を聴いている音楽好きなら、かなりの割合で認知されている、と勝手に思っているのですが、思いのほか深く聴きこんでいる人が少ない印象で、この曲もあまり知られない気がしているんですが。
本当に名曲だと思うんです。
センスの結晶
クラムボンの音楽性を一言でいうなら、ハイセンス。というのも、優れたミュージシャンの尺度とはまた少し違って、売れ線の筆頭にいるバンドとかシンガーの方って、ポップでキャッチーなメロディーを作る才能やセンスも勿論あるのだけれど、ある程度大衆に知られる為に工夫したり、何かしら需要に合わせた供給が成り立った結果多くの人の評価を得て売れているわけで。
まあ早い話が、音楽そのもので100%大衆に響かせてそれが100%何の誤解も無く「良い曲だね!」と響いて評価されるという事ではないということなんです。
特に近年では、音楽を手軽に聴く人口が増えたこともあって、MVだったりお笑いの要素を取り入れたりと、音楽に対する「付録」で大衆を引き付ける手法は増えています。
それを踏まえた上でMVやライブ映像を見て頂ければ分かると思いますが、クラムボンの音楽はそういった「付録」を一切付けずに活動しているバンドで、メジャーデビュー以降ほとんどタイアップも付けず、ひたすら完成度の高い作品を作り続けて一部の音楽ファンを虜にし続けているのです。バンドのコンポーザー的存在であるミトさんはそれを意図して戦略としてクラムボンというバンドを動かしていました。マジでカッコよすぎるでしょ。憧れないわけないでしょ。
クラムボンの三人は音楽専門学校のジャズ科出身という事もあり、音楽の知識や教養は三人ともバケモノ級。マジで三人合体させたらオベリスクの巨神兵ぐらいのステータスになると思います。
中でも、この楽曲「tiny pride」以外にもクラムボンの代表曲のほとんどを作曲しているベースのミトさん。この方の知識やテクニックは音楽業界でも指折りの存在らしく、木村カエラさんや花澤香菜さんへの楽曲提供やサウンドプロデューサーやミックスエンジニアとしても活躍する、凄腕中の凄腕。
唯一の欠点は、ライブで頻繁に情熱的になりすぎてベースを破壊してしまう事ぐらい。それだけは心配しています。
余白を楽しみなさい
クラムボンの音の魅力は色々あって、曲とかアルバムごとに違った方向性があるので一概には言えないんですが、クラムボンの音には余白とか空白が効果的に取り入れられていることが多く、それが堪らなく素晴らしい緊張感と寂しさを感じさせられます。
特にこの「tiny pride」には、まさに雪の降った朝のような静けさ、ピンと張り詰めた空気感みたいなものを感じますよね。
イントロのアコギ一本でコードをストロークする音の隙間に、微妙な周りの音や空気感が混じって聴こえてくるような感覚から、サビに入る瞬間に一瞬のブレイクを挟んでドラムとベースがドカッと雪崩れこんでくる構成はまさに緊張からの緩和、ミトさん流SMプレイに翻弄されてしまうわけです。
クラムボンの中期~後期にかけての楽曲は特にこの手法が多く使われていて、前半めちゃくちゃ静かな導入から後半は音量マックスで迫力のある展開に持っていってしまうのです。なのでミトさんがライブで演奏が高ぶりすぎて雄叫びをあげたり、ステージから落ちそうになるぐらい暴れ回るのも必然と言えるのです。街中でベースを弾きながら地面に首だけ埋まっているミトさんを見かけてもそっとしておいてあげてください。それはクラムボンの楽曲がドラマチックだからなのです。
勿論、この曲の魅力は音使いだけでなくメロディー、歌詞においても100点満点。誰かこの曲の悪いところを指摘できるものなら指摘してみてほしい。僕は見つけられそうにないです。
歌い出しのフレーズ「どうにかここまで 君と歩いてきたね」という一言で、クラムボンというバンドが如何にメディア戦略を一切執らず、純粋に音楽として高いクオリティを志して活動してきたか、その歴史と誇りがこの余白に表れている気がします。
もしも世界にこの三人だけになってしまっても、音を鳴らせる喜びは変わらないだろうし、それがこれまでやってきた活動そのものである事の証明のような。
三人以外に何も映っていないMVにも、そういったメッセージが込められているように思います。ただのアルバムの中のバラード曲ではない、クラムボンの並々ならぬ決意を感じる1曲。
***
今回はここまで。次回は「ど」から始まる名曲を紹介します。