諂諛

音楽好きによる音楽好きの為の雑記。

しりとり名曲紹介 No.15 [いたちごっこ / チャットモンチー]

 

新年度が始まりました。昨年度はご愛顧ありがとうございました。

元号も発表され、例年よりも新鮮な気持ちで新年度を迎えた方も多いのではないでしょうか。

 

こんな忙しない時期にこの記事を読んでいる方は間違いなく変な人ですので安心して今日も音楽知識を肥やしていってくださいね。

 

 

 

 

概要

 

・邦楽オタクの僕が、人生で特に影響を受けた楽曲、音楽ファンなら絶対に聴くべき往年の名曲、時代と共に完全に忘れられつつある超・隠れた名曲を紹介するコーナーです。

・その名の通り紹介する楽曲の名前を、しりとりで繋いでいくというマゾ縛りとなっています。

・基本的にアーティストの被りは無し、「ん」で終わる曲は1つ前の文字を繋いで続行します。

(例)にんじゃりばんばん → 「ば」から始まる曲を次回紹介。

 

 

いたちごっこ / チャットモンチー

 

 

2000年に徳島市で結成、2005年にミニアルバム「chatmonchy has come」でメジャーデビュー。

当時は珍しかった女性スリーピースバンドという編成や、ボーカル橋本絵莉子の素朴な見た目に反した毒のある歌詞やキャッチーなメロディー、更に演奏隊のテクニックがチート級というおまけまで付いて、その人気はあっという間に全国レベルに上がりました。

 

しかし、2011年ドラム高橋久美子が脱退。その後ツーピースでの活動やサポートメンバーを迎えての活動を経て、2018年に惜しまれながら解散を発表しました。

 

この楽曲は2014年、高橋久美子が脱退した後、サポートメンバーを含めた5人編成で製作されました。

シングル「こころとあたま」と両A面シングルでの発売で、MVに当時無名だった吉岡里帆さんが出演し、その可愛さで話題にもなりました。

今見るとちょっと垢抜けてない感じがめちゃくちゃ可愛い。こりゃ売れるわ。

 

恐らくチャットモンチーを語る上でスリーピース時代は勿論欠かせませんが、今回は敢えてこの曲を紹介したいと思います。

この曲には作曲技法において語りたいポイントが一つあって、歌詞コード進行という二つの要素が上手く噛み合っているとても器用な楽曲なんでございます。

 

 

 

歌詞に応じて変化するコード進行

 

ここからは少し難しいお話になるのですが、ご了承ください。

 

この曲のイントロからAメロにかけてはEメジャースケールで進行していく上にセブンスなどのテンションコードもほぼ使用せず、まったく純粋な明るいコード感で進行していきます。

 

ここで最初の歌詞を見ていきます。

 

今日は気分がいいな まさに新品の心だ

日記書くのやめようかな もう枠におさまらない

まさに今頃の季節感を想像させる「明るい」イメージの曲なんだと印象づけられますね。

 

そしてBメロに入った時に、ちょっと雰囲気が変わるのが分かるでしょうか。

Bメロから頭のコードがC♯mになっており、同じキーの中でメジャースケールからマイナースケールへと変化します。

 

ここで注目すべきは歌詞。

 

愚痴みたいなうた 吐いて

サプリみたいなうた 食べて

野次みたいなうた とばして

説教じみたうた 食らって

 

と、コード進行と同じく少し後ろ向きな印象の歌詞が続きます。

 

そしてサビでも引き続きマイナースケールの進行に、やや不安げな心情が歌詞にも綴られています。

 

鈍感ではいられない街 ここ東京

純粋では報われない声 私はただ

うたいたいうたがなくなってくのが

こわいだけなんだよ

止まれない街 ここ東京

 

 

このように、歌詞と同じようにコード進行も変化していくという技法が使われていることが分かります。

 

世に溢れるポップスの大半は、イントロからサビまでメジャースケールかマイナースケールのどちらかに偏っているのがセオリーで、その方が曲としての印象が伝わりやすいからという理由もあるのですが、単純にこの技法は思いつかなかったという方が真意に近いのではないでしょうか。

コード進行だけで言えばスピッツの曲はAメロが長調でサビが短調になる手法を多用していたり、J-POPの中ではそんなに珍しい手法ではないのですが、いたちごっこのように歌詞が連動しているケースはマジで初めて聴いたかもしれない。

 

くそ、真面目に解説してしまった。

 

 

えっちゃん大人になる

 

ここからはチャットモンチーのファンとして、この曲が持つ切なさとかを伝えたいと思います。

 

この曲を書いた橋本絵莉子ことえっちゃんは、この曲がリリースされる1年ぐらい前に第1子を出産しているんですね。お相手はロックバンドtacicaのボーカル猪狩翔一さん。

女性は子供を産むと性格が変わるだとか、母になるとかよく言われますが、この歌詞を見るとえっちゃんの心境の変化が現れている気がしますよね。

 

女性アイドルに「卒業」という概念があるように、ロックバンドという商売はある程度不特定多数の異性への売り込みを要する仕事であり、男性のように「モテたい!モテるやつが勝ち!」というアホな考えよりは、現実的に一人の男性と子供を育てたいという考えの方が圧倒的に多いのが現実。

チャットと同じく昨年解散を発表したねごとも、「いつまで続けるんだという葛藤があった」とコメントしていたように、女性の考え方ではそれが普通だと言えると思うんです。

 

 

「うたいたいことがなくなってくのがこわいだけなんだよ」という1文は、えっちゃんの心からの本音だと思うし、先に脱退していった高橋久美子さんや家族の存在もあって、この曲を書いた辺りの時期には既にチャットモンチーの終幕を見据えていたのかなと思ってしまいますね。

 

ちなみにこの歌詞は酔っ払って書いたものだそう。個人的には生理中に書いたようにも見えるんですけど。

なんか、思春期みたいなのじゃない、すげぇリアルな大人の憤りみたいなのが現れている気がします。オカン怖い。

 

 

 

***

 

 

解散は寂しかったですが、四国という小さい島に生まれたもの同志ということで、昔から妙な親近感と誇らしさを感じています。

久美子とえっちゃんは結婚して幸せになったから、アッコは早くべボべのこいちゃんと結婚してください。ご報告待ってます。

 

 

今回はこの辺で。次回は「こ」から始まる名曲を紹介します。

 

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