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音楽好きによる音楽好きの為の雑記。

あなたの知らないカップリング曲の世界 ~邦楽に隠されし耽美な深淵~

 

皆様は、”カップリング曲”と聞いてパッと思い浮かぶ曲はありますでしょうか。

 

 

音楽好き、延いてはこの記事に興味を持って飛んできてくれた方なら、おそらく一つや二つ思い浮かぶのではないでしょうか。

 

今回はそんな”カップリング曲”に多大なる思い入れを持った筆者が、ただただそのフェチズムを晒す記事になっています。

商業音楽における”秘境”とも言えるカップリングの魅力を、今一度発見して頂ければこれ幸いです。

 

 

あなたの知らないカップリングの世界 ~邦楽に隠されし耽美な深淵~

 

 

①基礎知識編

 

カップリングってそもそも何?

音楽好きな皆様にはもはや説明不要かと思いますが、今一度カップリングについて説明すると、シングルCDにおいて表題曲と一緒に収録されている楽曲の事で、本来プロモーションに使う曲が1曲入っていれば商品として成り立つところを、もう1曲付いてくる事でお得感アップ!という画期的なシステムなのです。

 

・B面、C/W、とか色々言い方があるのは何故?

B面は、アナログレコード時代の良い方の名残。アナログレコードは盤の両面に音を収録できるため、表と裏に1曲ずつ収録し「A面」「B面」という呼び方が浸透した。

 

C/Wは「Coupling With」の略。

 

・洋楽にもカップリングはあるの?

アナログレコード時代は邦楽同様”B面曲”は数多く存在し、A面の人気を上回る事もそこそこありました。

90年代以降のCDシングルに変わってからは邦楽に比べてカップリング文化の浸透は薄い印象で、表題曲のリミックス過去曲のリカットなどが収録されることが多いようです。

レッチリFoo Fightersなど一部のバンドは、アルバム未収録のカップリング曲を大量にリリースしていますが、日本のようにB面集的なアルバムも出しておらず、ほとんどがサブスク未解禁だったりするので厄介。

 

 

 

②邦楽におけるカップリングの歴史編

 

時を遡る事およそ90年。日本で最初のレコード商品と言われる、1928年にビクターから発売された藤原義江の『出船の港』というシングルレコード。

このレコードのB面には『出船』という別の曲が収録されているので、日本においてカップリングの歴史は、レコードの最初期から始まっていると言えます。

 

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こうしてレコードが普及したのち、1980年代にCD(コンパクトディスク)の普及が広まっていきます。

知っての通り、CDはレコードのように両面に音を収録することはできませんが、B面はカップリング”としてその文化を残す事に成功するのです。

 

1990年代前半から始まったCDバブルと言われるCD売り上げの黄金期には、J-POPにおいてシングルの表題曲だけでなくカップリング曲からヒット曲が生まれる事もしばしばありました。

 

ラブ・ストーリーは突然に

ラブ・ストーリーは突然に

  • 小田 和正
  • J-Pop
  • ¥255
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1991年にリリースされた小田和正のシングル『Oh! Yeah!』のカップリング(正式には両A面シングル)として発表された『ラブ・ストーリーは突然に』は、A面よりもヒットしたB面曲として有名。

 

その他にも、

DREAMS COME TRUE『未来予想図Ⅱ』(『笑顔の行方』のカップリング)

PRINCESS PRINCESSの『M』(『Diamonds』のカップリング)

中島みゆきの『糸』(『命の別名』と両A面)

など、よく知られるヒット曲がカップリングから生まれたのもこの時代の特徴と言える。

 

ただ、実は上記の曲はすべて「過去のアルバムからのリカット」という形での収録なので、カップリング用に作られた訳ではなく既出曲の中でシングルヒットしそうな曲を選んで収録されています。これもあまり知られていない事実。

当時はメジャーデビューしたばかりのアーティストが世間から全く注目されない事も多く、売れていない時期のアルバムに何気なく収録した売れ線の曲を、「お前ら売れてないから次のシングルにこの曲入れて出せよ」的なレコード会社からの圧力も多少はあったようで、それが結果的に功を奏したという時代でした。

 

 

 

③邦楽ロックにおけるカップリング編

 

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先程のセクションで紹介したJ-POPにおけるカップリング曲の体系を経て、2000年代前半辺りから邦楽ロックを中心にカップリング曲のクリエイティブ化”が進んでいきます。

 

90年代のように売れ線でヒットを狙うようなカップリングではなく、よりバンドのソングライティング力を重視した楽曲だったり、新たな一面を見せる好奇心に溢れた楽曲を作るアーティストが増えてきます。

それまではオリジナルアルバムに収録される事が多かったが、この辺りからオリジナルアルバム未収録の、シングルを買わないと聴けないカップリング曲が急増しました。

アルバムに収録されなかった楽曲をまとめた「B面集」と言われるアルバムも、この時代のシングルを出していた邦楽ロックバンドは大概出しています。

 

そして2000年代の邦楽ロックにおいても、90年代以前に見られたカップリングのA面食い現象”が度々起こっていて、ただ前者とは違いこの時代はそんなカップリングですらオリジナルアルバムには収録されず、後にファン投票などによるベスト盤に圧倒的上位で組み込まれるという事態が頻発します。

 

このような事からも2000年代の邦楽ロックにおけるカップリング曲に対する価値観は、それまでの商業的戦略を重視したイメージから、よりアーティストのクリエイティビティにフォーカスしたものへとシフトしていきました。

 

 

④筆者が紹介したいカップリング名曲たち

 

 

THE BACK HORN / 真夜中のライオン (2010年発売『閉ざされた世界』収録)

真夜中のライオン

真夜中のライオン

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先程述べた邦楽ロック名物”A面食い”の1曲。オリジナルアルバム未収録ですがファンからの人気も高く、ライブでも表題曲より頻繁に披露される。

掴みからこれでもかと聴き手の高揚を煽るキャッチーなロックナンバー。イントロで小さく鳴っている山田将司(Vo.)による遠吠えのような雄叫びも、ライブでは爆音で堪能できます。

もう一つのカップリング『警鐘』も素晴らしい。

 

 

スピッツ / 孫悟空 (2002年発売『水色の街』収録)

孫悟空

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『猫になりたい』ではなく、敢えてこっちをチョイス。

スピッツカップリング曲たちを聴いていると、勝手ながら筆者のフェチズムと非常に似た感覚を持っているんじゃないかと感じられる節がめちゃくちゃあって、毎シングルごとにバラエティ豊かなカップリング曲を提供してくれる稀有な存在。

この曲に関しても、「うわ~カップリングやな~」と唸ってしまうマニアックなアプローチをしていて、シングルで出すような普遍的なポップスもちゃんと作りつつ、こういった遊び心のある楽曲でコアなファンの心も離さないでいてくれるスピッツはもはや彼氏。出来過ぎた彼氏。ずっしょ。すきぴ。

 

 

BUMP OF CHICKEN / キャラバン (2010年発売『魔法の料理 ~君から君へ~』収録)

キャラバン

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『ラフメイカー』など有名なカップリング名曲も持っているチキン兄さんですが、個人的なフェチズムをより擽られたのはこの曲。
これの素晴らしい点はズバリ”表題曲との対比”。「NHKみんなのうた」にも起用された『魔法の料理〜君から君へ〜』カップリングにこの凶悪なグランジロックを同梱するという、ある意味リスキーな試みでもあるけれどファンには堪らない1曲。
チキン兄さんのシングルはどれも表題曲とカップリングの対比が面白く、どれも買う価値があった。隠しトラックも含めて。

 

 

GRAPEVINE / エレウテリア (2007年発売『超える』収録)

エレウテリア

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日本屈指の”カップリング名手”でもある孤高のロックバンド、GRAPEVINE

バインはB面集だけ聴いてもそれなりに退屈しない程にはカップリング曲が充実していて、ここでも本当に紹介しきれない程名曲が沢山あるのですが、やはり1曲選ぶならこの『エレウテリア』でしょう。

オリジナルアルバム未収録ながら、2012年に発売されたベスト盤の収録曲を決めるファン投票で、名だたる楽曲群を抑えて3位にランクインし見事ベスト収録を果たしたお墨付きの1曲。

筆者もこの楽曲には並々ならぬ思い入れがあり、この曲をやるかもしれないという理由で毎回ツアーを観に行っていると言っても過言ではないぐらいライブで一度は聴きたい楽曲。

本人たちにとっても思い入れの強い(多分)楽曲で、ライブではここぞという大事なライブの大ラスで披露される事が多い。

歌詞、メロディー、コード進行、どれを切り取ってもソングライティングの結晶の様な輝きを放つ、全ての瞬間が美しい珠玉のバラード曲。これをドラムの亀井さんが作曲しているんだから溜め息が出るわ。

 

 

岡崎体育 / チューリップ (2016年発売『潮風』収録)

チューリップ

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これまで挙げたパターンとは少し異なり、「表題曲のタイアップ用に作ったがボツになった曲」という邦楽のメジャーシーンで稀に見られるケース。
この曲は「舟を編む」という小説原作のアニメのタイアップ用に作られたが、制作側から「もっと岡崎体育らしいポップな曲にしてほしい」と没にされ、結果的に表題曲の『潮風』が採用されたという。ただ岡崎体育自身もこの曲を気に入っていたためカップリングに収めたらしい。
このように、ある種の誤解を解く手段としてカップリングが使われる事もあります。岡崎体育は一見コミカルなポップソングを得意とするように見えて、実は音楽的背景が非常にしっかりしていて多彩な作曲家だという事を、この曲を通じて世に知らしめる事ができたのではないでしょうか。

 

 

⑤最後に

 

何故私がここまでカップリング文化に惹かれるのか、そしてこのカップリング文化が特に邦楽において深く根付いたのかを考えたところ、”日本人の持つ豊かなサービス精神”が深く関わっているのではないかと考えます。

 

例えば、会話が面白い人って身の周りに何人か居ますよね。

その人と話すたびに笑わせてくれる、言わば話術が巧みな人って一定数居ると思うんですが、あの人達って別にそれでお金を貰ってるわけでは無いんですよね。当たり前だけど。

今回取り上げた”カップリング曲”の魅力も、それに通ずる部分があると思っていて、要はアレって”サービス精神の具現化”だと思うんです。

 

正直カップリング曲も表題曲と同じように次のアルバムに入れた方がアーティスト側からすれば楽に決まっているし、入れないにしてもカラオケバージョンとか有り物のライブ音源とか入れておけば、CDの価値は十分賄えるんです
それでも先人達は、ここでしか聴けない1曲を作って届けてくれるのです。A面では見せない顔を見せてくれるのです。これは偏に、サービス精神の表れではないでしょうか。
日本人らしい豊かなサービス精神こそが、邦楽においてこんなにもカップリング文化を定着させた最も大きな理由だったのではないでしょうか。


アナログレコードの始まりから現代まで様々な変容を遂げてきたカップリングという文化が、少しずつ薄れて来ているように感じています。
デジタル化と共にCDの需要も薄れていき、CDの価値を底上げする為のカップリングも自ずと少なくなっていくと思います。
でもやっぱり私個人の願いとしては、カップリング文化を完全に無くすのは余りにも勿体無いと思うのです。

そのアーティストが持つ豊かな音楽性だったり、パブリックイメージに捉われない尖った精神を見せる事で、新たな魅力を人々に示すことができるツールだと思います。

 

この先どんなに影を潜めようと、私はこのカップリング文化の灯を消さないように大事に伝えていきたいと思っています。

 

 

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最後に、私の一存ではありますが個人的に好きな邦楽のカップリング名曲を集めたプレイリストを作成しました。

オリジナルアルバム未収録カップリング曲に限って選曲しています。シンプルに名曲と言えるものから、「ザ・カップリングやな~」なマニアックな曲まで幅広くセレクトしましたので、興味のある方は是非聴いてみてね。

 

それでは、さらなる深淵でお待ちしています。

 

 

 

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*1:日本で最初のシングルレコードと言われる藤原義江『出船の港』(1928)。